「これで買える分のランチを頼む」

「お客さん。ふたり分の食事でこのお代は多すぎる。うちは小さい店だから、釣りの用意がないよ」

「悪いが、硬貨の手持ちがないんだ。もてなしへのチップとしてもらってくれ」


 レジに立つ店主が目を丸くする。

 ここは、観光地も特にない田舎のレストランだ。

 高級なボア付きのコートにサングラスという、いかにも地元民ではない装いのふたり組が入店したものだから、他の客も物珍しそうにこちらを眺めた。

 ふわふわのパンとビーフシチューが乗ったトレーを持って席に着くなり、こっそり相棒に尋ねる。


「私たち、ちゃんと変装できていますかね?」

「ああ。少々目立っているかもしれないけど、腹ごしらえの間は追っ手は来ないはずだ」


 湯気がたちのぼるビーフシチューを頬張ったハーランツさんは、案外余裕たっぷりに答えた。

 王都を飛んで出た後、私たちはヨルゴード国の外れの北へと進んでいる。


「城を出て二日、そろそろ目的地が近くなってきたな」

「ザヴァヌ王の研究所に向かっているんですよね?」

「ああ。まずは敵の作戦を暴いて、こちらの作戦を立てようと思う」