「大河(たいが)、起きろー!」

『うるさいな。栞(しおり)か……。お前、モーニングコールってのは、「おはよ、大河くん」とか「お・き・て・ね」とかかわいらしいの頼むよ』


隣に住む幼なじみの霧島(きりしま)大河は、張りのない声でぼそぼそとつぶやく。


「あのね、この電話何回目だと思ってるの? 今、何時か知ってるの?」

『えっ、もう六時じゃん。ヤバ』


大河はやっと時間に気づいたらしく、ブチッと電話を切った。

彼の両親は共働きで、朝早く出勤しなければならず忙しい。

だから大河を起こすのはもう長い間私、波多野(はたの)栞の仕事になっている。


四月から私たちが通う、旭日(あさひ)高校は、駅まで徒歩十分。
そして電車で約二十分とまた徒歩で十分かかる。


私たちの所属する野球部の朝練は七時からで、もうそろそろ出ないと間に合わない。


小学校に上がる前からリトルリーグに入り、長くエースで四番を務めてきた彼を応援したくて、私も野球部のマネージャーになった。

ごく普通の公立高校の野球部では、スポーツ推薦で全国から選手を集めている私立高校には歯が立たないのが現実だ。