そっと静かに玄関を開けると、綺麗に磨かれたビジネスシューズがあった。

帰ってきているのは分かっていたけど、いつもはない人の気配にドクンと鼓動が跳ねる。


一旦自室に戻るか少し迷って。

だけど、ここで逃げてしまったら話せなくなる気がして、靴を脱いだ私はリビングへと向かった。


大丈夫、大丈夫……。

心の中で繰り返しながら、リビングのドアを開ける。すると、


「結月、おかえり」


ダイニングテーブルに座り、顔を上げて私を待ち構えていたように言ったのは……父さん。

スーツを着たまま、まるで来客のようにも見えるその姿を見た瞬間、息が詰まるように苦しくなる。


やっぱり、同じ空気を吸うのも嫌……だけど。


「……」

私は返事をせず無言のまま、父さんの方へ歩いていった。


「出かけてたんだな」

「そっちは随分早かったんですね」

「あまり待たせるのもと思って、切り上げてきたんだ」

「……そう」


特に興味もない返事をしながら、私も父さんの前の椅子を引いて腰掛ける。