夜の10時ちょうど。



 俺は病院の屋上の鍵を針金を使ってこじ開け、
中に入った。





「……寒いな」


 誰にいうわけでもなく、独りでに呟く。



 10月10日、日曜日にもうすぐなる。




 休日に飛び降り自殺かぁ……なんか笑える。





 飛び降り防止の柵を軽々と飛び越えると、俺は屋上の床に座り、空中に足をぶらぶらとさせた。




 15階建てだと、流石に結構高いな。



 夜の風が、俺の死にたいって想いを急かした。



 それはまるで、“心も体も寒いんだから、さっさと放っちまえ。逃げちまえよ”って言ってるみたいに。



 遥か下の方に微かに見えるのは、街灯と住宅の窓から覗く、淡い光。



 スカイツリーから見る景色とか、よくすごい綺麗だという。



 でも、この夜景は、俺には到底綺麗には見えなかった。



大方、死のうと考えてるからなんだろうなぁ……。




 死ぬ前に見る景色も、死ぬ前に起きた出来事も良いものとは程遠くて、ちょっとだけ切ないなぁなんて思う。





 まぁ、どうせ死んだら、こんなこと忘れるんだろうけど。