「やばいやばいー、あたし数学ぜんっぜんわかんないよ」



万葉ちゃんが頭を抱えながら振り返ってくる。



「今の授業ちんぷんかんぷんだったし。このままだったら今度の期末0点になる!どうしよう!」


「落ち着いて万葉ちゃん」



それはないよ、と騒ぐ彼女をあたしはなだめる。

たしかに万葉ちゃんは数学がちょっと苦手だけど、集中力が高いからテスト前の勉強で大抵はカバーできてるもん。



「あとで一緒に要点だけ抑えよう?」


「うっ、ありがと美優……。あー、あたしもしかしたら学年で最下位かもしれないよぉぉぉ」


「うはっ、水谷ならありえるなっ!」



隣で聞いていた和久井くんが面白そうに首を突っ込んでくる。



「もーうるさいなぁ、和久井のくせに!」



万葉ちゃんは真剣に心配してるけど。


……ないよ。

最下位なんて……。

だって、最下位は黒崎くんの指定席なんでしょ……?


そう心の中で問いかけて目を向けた右隣は。

今日も空席のまま。