杏里の考え方はあたしにとって衝撃的なものだった。


カメラの映像はすべて偽物。


だから誰も悪くない。


あたしはその考え方にフワフワと空中に浮いているような気分になった。


あたしが悩む必要はなにもない。


だって、すべて嘘なんだから。


颯は誰も殺していない。


それでも、あたしの手は自然とスマホに伸びていた。


監視カメラで真実を確認したい。


そんな衝動が抑えられない。


だけど、あたしは握りしめたスマホを鞄に戻した。


そもそも、こうなってしまったのはあたしが監視カメラを仕掛けたからだ。


カメラさえ見なければ、今まで通りの生活が送れる。


そう思い直し、自分の衝動を抑え込んだのだった。


杏里に打ち明けてから数日が経過していた。


杏里も、あたしの話を聞かなかったかのように、自然にふるまってくれている。