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優菜(ゆうな)への“いじめ”が始まったのは、だいたい中学三年生の春からだろう。

優菜が属しているのは、三年間五組。

他のクラスでも評判の悪い生徒、ずる賢い生徒、気の小さい生徒が集まって出来た、まるでゴミ溜めのようなクラスである。

かててくわえて五組の教師は、世間で言うところの“友達先生”。

クラスの実権を握る生徒に媚びへつらい、面倒ごとを避けて仲良くする、教師にあらざる教師だった。


最悪の条件が揃い揃った中、比較的真面目にできていた優菜は、かっこうの獲物だったのかもしれない。


始めは無視からはじまり、あたかも段階を踏むかのように、陰湿ないじめは過激化して行った。

女子生徒間で行われていたものが、次第に男子生徒まで混ざるようになった。

軽い平手打ちが、次第に拳で殴られると言う、完全な暴力へと変わった。

そして、ついにはーーー。


『警察にでも届けてみろ。
この画像、クラス中にばらまくからな』


とうとう“そういうこと”にまで、及ぶようになった。





なぜ自分がいじめられなくてはならないのか。

もちろん、優菜はそんなことを考えなかったわけではない。



……無論、日常的に暴力を振るうに値するようなことをした覚えは、一度だってなかった。


しかし、いじめの標的とされる“理由”なら、思い当たった。


優菜の両親が、多額の借金を作って心中した。


おそらくそれが、いじめの火種だろう。



最近では“いじめられる側にも原因がある”というが、その原因とは、実はほんの些細なものでしかない。


どうしようもない子供というのは、本当に救いようのない生き物だ。


要は“いじめの理由”さえあればいい。


借金でも、身内の死でも、自分が以前に起こした小さな過ちでも。


彼らには『理由』さえあればいいのだ。


それをこじつけて、いじめに変えることができる。