ティアナはマルセルに手を引かれるままに王宮内を走った。

走り通しで息を切らしながらも、前を行くマルセルの背中に涙が出そうになる。



自分の足で、彼についていける。



同じ目線で世界を見ることができる。



強く手を握れば、握り返してくれる。




じわりと滲んだ涙を、ティアナは気づかれないように指で拭った。


その間も王宮の勝手を知るマルセルは迷いなく足を進め、兵士も知らないような隠し通路にティアナを引き込んだ。


「待ってマルセル……」


ふいにティアナは足を止め、マルセルを呼び止める。


「誰かがわたしを呼んでる」


通路に入ろうとした瞬間に、誰かがティアナの名前を呼んだような気がした。

鈴のような声で、こちらへ来てと願っているような。


訝しげに眉を寄せるマルセルには目もくれず、ティアナは通路から飛び出して、何かに引き寄せられるように足を動かした。

後ろでマルセルがティアナを呼び止めたが、どうしても行かなければならない気がして足を進める。