短歌をきっかけに始まった、顔も知らない男の子との文通。10,000字あまりの短編の中に、甘酸っぱくて繊細な恋模様が丁寧に描かれていました。作中で使われる言葉や表現も綺麗で、読んでいて心地よさを感じます。少しドキドキしながらも、読後には心が温まるような、そんな一作です。欲を言えば、この二人がこれからどうなっていくのか…と想像を膨らませられるような“余韻”や“仕掛け”があると、さらに物語の世界に引き込むことができるかもしれません。

今まで遠すぎず、近すぎず、絶妙な距離感だった隣の家の男の子。彼がアイドルとして一躍人気者になったことで、まるで遠い世界の人のように感じてしまい…そんなところから物語は始まります。作中では多くを語らず、絶妙な塩梅で物語がまとまっていました。ただ、ヒロインが心の中でもやもやしていた核心が、完全には解決されていないようにも感じられたため、ぜひエピソードを追加して深く掘り下げていただきたいと思います。

ウソのラブレターによって出会い、犯人を突き止めるために疑似的に付き合うという展開がとてもキャッチーで惹き込まれました。13,000字というボリュームを感じさせないほど、起承転結がしっかりしていて、筆力の高さがうかがえます。物語が進むにつれ、ヒロインの双子の妹が犯人だったことが明かされますが、妹の本当の狙いや、なぜ姉に対して冷たい態度を取るのかが少し分かりづらく感じました。この部分がより明確になることで、物語にさらに深みが増すと思います。

失恋したヒロインが補習で体験する、夏の一コマが爽やかに書かれていました。終盤、先生が鍵を落として教室から出られないかもしれない…という展開はドキッとしましたが、ヒロインの高い身体能力によってあっさり解決されたため、もう少し“この場所ならでは”のハプニングがあると、さらに印象深くなりそうです。また、恋愛ジャンルなので、どこかに恋愛らしさを感じられる描写が加わると、物語の軸がより明確になり、読者の心に残る作品になると思います。

本作は「白雪姫」をモチーフにした微ホラー作品で、特にヒロインがヴィラン的な立ち位置にあるというのが新鮮でした。独自の発想力には光るものを感じます。一方で設定やテーマにやや難解な部分があり、短編としては情報量が多く感じられました。もう少しシンプルな構成にすることで、より伝わりやすくなるかもしれません。とはいえ、ヒロインが「自分の可愛さへの妄信」によって今後どのような展開を繰り広げるのか…。続きが気になる魅力的な一作でした。

全体講評

今回は複数のジャンルやキーワードから選べる新しい形式で募集を行いましたが、おかげさまで、予想を大きく超える数の作品が集まりました。ご参加いただきました皆様、ありがとうございました！

今回の企画では、野いちごで人気の“王道キーワード”に加え、「これはちょっと気になるかも…」という設定を集めた“レアキーワード”も取り入れました。皆さんそれぞれの解釈で物語を広げてくださったため、これまでの企画ではなかなか読めなかった個性豊かな作品に触れることができ、とても嬉しく思います。

一見、野いちごとは離れたジャンルや設定に見えても、どこかに“野いちごらしさ”が感じられる作品も多く、作家の皆さんが普段から「どんな作品が人気なのか」を探求されていることが伝わってきました。「この設定は合わないかも…」と思っても、工夫次第で唯一無二の作品になるということを、今回改めて実感しています。人気の流れに沿うだけでなく、「誰もやっていないから挑戦してみよう」というチャレンジ精神を、ぜひ今後も大切にしていただけたら嬉しいです。

さらに、余力のある方は今回の応募作品をベースに、エピソードを追加して中編・長編へと広げてみましょう。運営局一同、皆さんの新しい挑戦を楽しみにしています！