「この傘、使って。
…というか、返す。」


「返す?」


よく意味がわからなくて、首を傾げると、さらに丹羽くんは言葉を続けた。



「これ、前に戸塚に貸してもらった傘だから。
さっきのバカって言葉だって。
お前、ほんとに忘れてんだなって意味で。

だから、その。
ごめん。」



軽く頭を下げて謝る丹羽くんに、私はさらに首を傾げる。


「私、丹羽くんに傘、貸した記憶ないよ?」


「…だろうな。
戸塚にとって傘を貸すことは日常的にやっていることで、特別なことじゃない。」


…たしかに、心配性の私は置き傘を常備していて、雨が降りそうなときは、折り畳み傘も持ち歩いている。

だから、誰かに貸したりすることもあるかも…って。


「……思い出した。」