さてそんな酒の肴にされている真砂の彼女は、それからたっぷり二時間後、ようやく解放された。
 べろんべろんな男たちに三次会に誘われたが、そこは社長がブロックしてくれた。

「遅くまで悪かったね。これに懲りず、また機会があったらぜひご一緒したい。仕事も助かったよ」

「あ、いえ。こちらこそ、お世話になりました」

 労ってくれる社長に、深成がぺこりと頭を下げる。
 その途端、ぐらりと深成の身体が揺れた。
 ずっと深成についていた六郎が、慌てて支える。

「大丈夫かい?」

 二次会では飲まないつもりだったのに、周りに飲まされてしまった。
 何を飲んだかよくわからないが、あっという間に深成は酔っ払ってしまったのだ。
 頭を下げた動きだけで、腰砕けになってしまう。

「おやおや。こりゃタクシー拾ったほうがいいな。海野はしゃんとしてるし、まぁ間違いもなかろう。送ってやれるか?」

「はい。もとよりそのつもりです!」

「では頼んだぞ。わかってるだろうが、ミラ子社長からの大事な預かりものだからな。変なことするなよ」

 じろり、と念を押す。
 ガテン系をまとめる社長だけあり、迫力は半端ない。
 真面目な六郎は端からそんな気はないが、姿勢を正して、は! と答えた。
 そして深成を連れ、通りに出る。

「深成ちゃん、大丈夫?」

 最早支えがなければ立っていられない状態の深成だが、幸い小さいので六郎の負担にはならない。
 手早くタクシーを拾うと、六郎は深成と共に乗り込んだ。
 そこで、ぱ、と深成が顔を上げる。

「こまつちょうのぐらんどびゅうまんしょん」

 それだけ言うと、こてっと六郎とは反対側のドアにもたれて目を閉じる。
 六郎は慌てて深成の肩を軽く叩いた。

「いや、そこじゃないよね? 深成ちゃんの家は?」

 前に送って行ったときも確かそこに行ったが、その後のあきの話から、どうやら深成の家は別のところらしかった。
 『グランドビューマンション』は彼氏の家だとか。

 深成の彼氏は、信じたくないが真砂のようだ。
 ということは、『グランドビューマンション』は真砂の家、となる。
 そんなところに深成をやれるわけがない。

 しかもこんな夜に、このように酔っ払っている深成を送り込めば、あの助平で鬼畜なドS野郎のこと、何をするやらわかったものではないのだ。
 ……真砂は深成の彼氏だというのに、六郎の頭はそこをどうしても認められないので、真砂が深成にそういうことをすることも許せないわけである。

 が、そう思っているのは残念ながら六郎だけなので、深成は眠そうな目をこじ開けて、じろりと六郎を見た。
 いつもの深成ではあり得ない、据わった目だ。

「わらわのお家はそこなの。運転手さん、よろしく~」

 はい、とタクシーの運転手は車を出す。
 が、六郎はなおも食い下がった。

「駄目だよ。こんな夜に、そんなところに」

「そんなところって何さ。わらわのお家なんだって。ほらっ」

 ちゃら、と鞄から出したくまを突き出す。
 何だろう、と思っていると、その先には鍵が付いていた。

 鍵は一つ。
 他に自分の家の鍵がもう一つあるわけでもない。

「……」

 微妙な顔で六郎が固まっている間に、タクシーは件のマンションについてしまった。