【キャスト】
mira商社 課長:真砂 派遣社員:深成
社員:捨吉・あき・千代
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 三月十日。
 mira商社営業部一課では、二人の男が頭を悩ませていた。

---ホワイトデー、どうしよう。折角付き合えたんだし、一か月記念日だし、特別なことしたいよなぁ。何がいいかなぁ---

 PCを打ちながら、捨吉はう~んう~んと唸っていた。
 VDにめでたくあきと付き合うようになったのだが、元々仲が良かったため、付き合ったからといって、特に関係に変化はない。
 プライベートなやり取りは増えたが、それだけだ。

「あんちゃん、どうしたの。お腹でも痛いの?」

 斜め前のモニターの陰から、深成がぴょこりと顔を出した。

「い、いや。そうだ、深成。ホワイトデーは何が欲しい?」

 一応深成にもチョコは貰っている。
 深成には軽く聞けるなぁ、と思いながら、捨吉は聞いてみた。

「え、う~ん。お菓子でいいけど」

 深成も特に構えることなく答える。
 お互い意識していない故の気安さだ。

「……深成は楽ちんでいいなぁ」

 しみじみ言うと、キッと深成が捨吉を睨んだ。

「何さっ」

「いや、わかりやすいのは悪いことじゃないよ。深成はそれでいいよ」

 へら、と笑って誤魔化す捨吉を、同じことで悩んでいた上座の真砂が、ちらりと見た。

---こいつだって、わかりやすいわけじゃない---

 内心そう思い、真砂もう~ん、と頭を悩ませた。
 意外にこちらのほうが随分大人な関係なだけに、お返しが難しいらしい。

 いつもなら直接本人に欲しいものを聞く真砂だが、以前捨吉に言われた『女子はサプライズが好き』ということも引っかかっているのだ。
 何気に素直である。
 とはいえ今まで自分でプレゼントを選んだことなどないため、何をあげれば喜ぶのかなど、さっぱりわからない。

---ぬいぐるみは、やったしなぁ---

 深成のことだから、そういうふわふわしたものが好きなのだろうとは思うが、ぬいぐるみは前にお土産であげている。
 それにこれ以上、家にぬいぐるみを増やされても置き場に困る。
 ぬいぐるみなら何でもいいわけでもないだろう。

---もう欲しいもの聞くかな……---

 慣れぬことを考えると、いつもよりも疲れる。
 やはり根底には『いきなりあげても欲しくないものだとどうする』という現実的考えがある。
 サプライズプレゼントというものは、出来ない者は本当に出来ないのだ。

 すっかりサプライズを諦めた真砂の席に、深成が書類を持ってきた。

「課長。これ、チェックお願いします」

「ああ……」

 書類を受け取るときに、ふと真砂の目が深成の手に留まった。

---指輪か……---

 恋人へのプレゼントの最上級といえば指輪ではないか。
 だが真砂には、何となく指輪は相手を縛るものだという思いがある。

 そのとき、フロアの扉が開いて、清五郎と一緒に羽月が入って来た。
 通りがかりに羽月が深成を見、笑って手を振る。
 深成も曖昧に笑って、軽く頭を下げた。

---やっぱりこいつは、縛っておかないと危険か?---

 指輪をしていれば、それを見ただけで大体彼氏の有無がわかる。
 単なるファッションでする者もいるが、深成などそれこそ意味がないとしないタイプだ。
 だがそういうタイプだからこそ、いきなり指輪などしていれば、周りの目がやかましそうである。

---まぁいいか。いよいよとなったら、もう結婚してしまえばいい---

 さらっと凄いことを考える。

「課長? どこかミスってる?」

 深成の声に我に返れば、真砂は受け取った書類を一枚めくっただけで動きを止めていた。