「わらわは先輩のことが好きだけど、それを言ったところで、未来永劫先輩がわらわを好いてくれるわけでもないっていうのは嫌だ。付き合ってもいいけど好きにはならないよっていう先輩は好きじゃない。それだったら初めから放っておいて欲しかった。お勉強教えてくれるっていうだけで、こっちはすっごく嬉しいのに、優しくするだけしておいて興味ないって酷いよ。わらわ、馬鹿みたいじゃん」

 このまま突き進んだら、また喧嘩してしまいそうだ。
 だが最後なんだったら、もう全部言ってしまおう。
 深成は目頭が熱くなるのを、必死で堪えた。

「でも先輩。ちょっと罰が当たりましたね。点数、ちょっと下がったでしょ。好きでもない子に構ったらいけないっていう教訓ですよ」

 涙と一緒に込み上げてきた鼻水を誤魔化すように、大きく息を吸い込んで、深成が言う。
 これで最後だ、と思うから、好きなことを言えるのだ。
 真砂は小さく息をついた。

「……確かに、あんなに勉強が手に付かなかったのは初めてだ」

 ちょっと深成の顔に疑問符が浮く。

「あの後お前のことが気になって、何も手に付かなかった」

「それは……失礼なこと言っちゃったし」

「馬鹿。俺だって何も思わない奴に、わざわざ毎日時間を割こうなんて思わん。初めて気になった奴に、ずっと好きだったとか言われて、何も思わないはずないだろ」

 ここしばらく上手く回らない頭のため、真砂の言葉が浸透するのに時間を要した。
 ようやく自分が真砂に告白したときのことだ、と思い至り、真っ赤になる。

「う、そ、それは……」

「だけど、放課後会ううちにお前も俺のことが大分わかってきただろうし。案の定、嫌われたな、と」

 おまけに泣かせたし、と言う真砂に、深成は焦った。
 真砂は人に興味のない自分をよくわかっている分、人に本気で好かれることもない、と思っているのではないか。

 告白してくる者もどうせ上辺だけ。
 中身を知れば去っていく。

 今まではそれで全然構わなかったが、唯一深成は違う。
 初めて興味を持った子だが、やはりそういう子も中身を知れば去っていくのだ、という結論に達したらしい。

「わらわは先輩のことが好きだもん! 先輩が、わらわにお勉強教えてくれたのが、わらわに対する気持ちだっていうなら、それはそれで……」

 勢い込んで言っていた深成だが、我に返って声が小さくなる。
 だが、ここは言ってしまうべきだろう。

「……わらわは、嬉しい……です」

 小さい身体をますます縮こませて、ぼそぼそ言う。
 ごほん、と真砂が咳払いした。

「……でもお前、他人に興味のない俺は嫌いなんだろ」

「先輩は、わらわのことも興味ないって思ってたからです。興味ないくせに、気紛れに優しくする先輩は嫌だけど……」

 うう、と赤くなりながらも、深成はぎゅっと拳を握りしめた。

「先輩が初めて興味を持ったのがわらわだって言ってくれたのは嬉しい。お勉強教えてくれたのも、わらわだからだって言うのなら……」

「当たり前だろ。好きな奴以外と必要以上に一緒にいる時間を増やす馬鹿がどこにいる」

 深成の言葉に被る勢いで、真砂が言う。
 あれ、わらわ、また怒られてる? と現実を受け入れられない脳みその深成がぼんやり考えていると、真砂がちょっと苛立ったように、真っ直ぐ深成を見た。

「気になった奴のことを知りたいと思うのは当然だろ。一年なんて会うこともそうないと思ってたところに、図書館で会ったんだ。こんなチャンスないだろう」

「えええ。えっと、初めっから先輩、そこまで考えてたの?」

「初めっからではないが。好きだと自覚したのは、喧嘩してからだな。さっきも言っただろ、こんなに人のことが気になることなんてなかったし。でも下手に順位を落としたら、お前が気にするかもしれん。だからとにかく、お前のためだけに頑張った」

 ぼーーっと深成は真砂を見上げた。
 これは夢の続きだろうか。
 頑張って三十位以内に入ったから、またくまちゃんがご褒美くれたのかな、と考える。

 ちょっと前まで遠巻きに見るだけだった存在が、今目の前に立って、自分のことを好きだと言っている。

「……聞いてんのかよ」

「あの~……。あの、まさか先輩。まさかですけど、わらわと付き合いたいって言ってたのは本気? いやいや、まさかね~。あれは例題でしょ? ていうかさ、あの、さっきから先輩、信じられないこと言ってるけど。わらわ、お勉強のし過ぎかなぁ。まさかまさか、わらわのこと好きとか……言っちゃってる?」

 あははは~~っと笑う深成に、真砂の顔が、ぴき、と引き攣った。

「俺がここまで言ってんのに、何ボケたこと言ってるんだ! 俺はお前が好きだ! 付き合いたいっつったのも本気だ! お前の気持ちはどうなんだ!」

「ひええぇぇっ! そそ、そりは誠にありがたく、お受けしたいと思います~~っ!」

 怒鳴られ、深成は縮み上がりながらも、真砂の告白を受け入れるのであった。

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 学生編。これは実際の年齢設定よりも、随分差がないバージョンになっております。
 でもやっぱり真砂の喋りはじじくさい( ̄▽ ̄)

 唯一若そうなところは、はっきりと深成に告白したところでしょうかね。
 初めは深成のことを考えて遠慮してたところもあるっぽいですが、最後のほうはいつもの俺様に戻ってるし( ̄▽ ̄)

 結構真砂は言葉をオブラートに包むということはしないので、いつでも直球といえばそうなんですけど。

 で、今回は若者なので、いつもの甘さはありませんでした。
 久々にバージョンが違うので、真砂の欲望も叶わず( ̄ー ̄)

 そういえばバージョンが違うのが久々過ぎて、『先輩』を油断すると『課長』と打ってしまいそうになる( ̄▽ ̄;)すっかりあっちのイメージですな。

2015/12/20 藤堂 左近