「えっ。いいの?」

 ぱ、と明るく言ってから、はた、と深成は我に返った。
 またこのパターン。

 真砂の言うことは、どこまで本気なんだか。
 というか、本当にいてもいいから言うのだろうが、それは一体どういう意味なのか。

 深成はマグカップをテーブルに置き、じぃっと真砂を見た。
 ここは確かめたほうがいい。
 どうせ他に聞く人もいないのなら、本人に聞いてしまえ、と、深成はずいっとテーブルに身を乗り出した。

「ねぇ課長。課長は何で、そういうこと言うの?」

 真砂が少し、訝しげな顔をした。

「夢かもしれないけど、前に課長、千代だったら送ったりしないって言ったよね」

「……ああ」

 トーストの残りを口に放り込み、真砂が軽く頷く。
 これでその後のキスも夢ではなかった、ということになるのだが、そこは残念な深成のこと、今はそこまで考えが及ばない。

「じゃあ何で、わらわは送ってくれるの?」

 ずいずいっと迫る深成をしばし見つめ、真砂は、ふん、と鼻を鳴らした。

「お前みたいなお子様は、放っておいたほうが面倒だからだ」

「何でさっ」

「ただでさえ飴玉一つでどこにでもついて行きそうなくせに、さらに酔っ払ってるわけだぞ。飼い犬の面倒を見るのは、飼い主の義務だろう」

「わらわは飼い犬だっての」

「そう考えれば、わかりやすいだろう?」

 ちょっと口を尖らせた深成だったが、なるほど、そう考えるとよくわかる。
 可愛がっている飼い犬が前後不覚になってたら、ちゃんと抱っこして連れて帰るだろうし、雷に怯えていたら、傍に置いてあげる。

 何気に相当馬鹿にした例えとも取れるのだが、深成は素直に、ふむふむ、と頷いた。

「なるほどね。だから課長は、わらわに構うわけか」

「面白い、というのもあるがな」

 少し微妙な顔になったが、つまらないと思われるよりは良いことだ。
 元々深成の思考回路は、物事を難しくは考えない。
 基本的にポジティブでもある。

 まぁいいや、と結論付け、深成は乗り出していた身を引いた。
 はっきり言って、元々深成の聞きたかった質問は、こういうことではなかったはずだが。
 そこはすでに、深成本人が忘れている。

「あ、でも、さすがにずっと課長ん家に泊まるわけにもいかないな~。課長だって、そんな長々いられたら困るだろうし、それに、大掃除しなくちゃ」

 ぽん、と手を打って、深成が言う。
 深成本人は、真砂の家に泊まることに抵抗はないらしい。
 何も考えていない、お子様思考回路故なのだろうが。

「……そうだな。さすがに俺も、そうずっと何もしないでいられるか、自信はない」

 もっともかなりの高確率で大丈夫だとは思うが、と呟き、真砂は食べ終えた朝食の食器を片付けた。