結局本屋では、どれを作るか決まらず、本は買わずに家に帰った。

「ねぇ先生。先生は何が好き?」

 その日の勉強時間中。
 すぐ横で深成の解いた問題をチェックしている真砂に聞いてみる。

「何って?」

 特に視線を上げることもなく言う。
 そんな真砂を、深成はじっと見た。
 そして、あ、と大事なことに気付く。

 真砂はフリーなのか?
 こんなに格好良いのに、彼女がいないということがあり得るのだろうか。
 彼女がいるなら、いくら深成が頑張ったところで無駄ではないか。

「そだ。先生って、彼女いるの?」

 直球で聞く。
 探りを入れるという頭は、端からない。
 真砂が、持っていたペンを置いた。

「いない」

 きっぱりと言い、見ていた問題集を突き出す。

「ここが間違っとる。お前、こういう問題が苦手だな」

 先の質問などなかったかのように、とんとん、とペンで問題集の一点を指した。
 深成は慌てて、問題集を覗き込む。

「あれれ? え〜とえ〜と。……わかんない」

「ここまでは合ってる。ここがおかしいんだ」

 深成のシャーペンの側を、真砂のペンが、とん、と叩く。

「ここが、こうだろ? そしたらここは?」

 ちょいちょい、と横に書き足すたびに、深成の手に真砂の手が当たる。
 額が触れるほどに近付いた真砂の顔に、深成は俯いたまま、どきどきと顔を赤らめた。

「え、えっと。……ここがこうで……。あ、こうか」

「そう。そこがわかれば、この辺も出来る」

「あっ、なるほど〜」

 ぱ、と笑顔になる深成に、真砂も少し笑った。

「ねね。先生、彼女いないんだったら、気にしなくていいよね。チョコ、どんなのが欲しい?」

 先の問題を解けば、今日の勉強は終わりだ。
 早速深成は、ずいっと真砂に迫った。

「チョコ?」

「バレンタイン!」

 ああ、といかにも興味無さそうに、真砂が呟いた。

「先生が好きなもの、作ってあげるよ」

 うきうきとガッツポーズする深成に、真砂は冷めた目を向ける。

「別にわざわざ作らんでもいい」

「え〜。折角のバレンタインなんだから、ちゃんとしたものあげたい」

 少し真砂が、妙な顔をした。
 これを言っているのがそれなりの女子なら特別な意味にも取れるが、生憎深成はまだ十一。
 どこをどう見てもお子様だ。

 対して真砂は二十歳。
 立派な大人である。