【キャスト】
家庭教師:真砂 生徒:深成 深成の同級生:あき
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 一月末。
 深成は本屋で、料理本を睨んでいた。
 そこに、同じクラスのあきがやってくる。

「深成ちゃん、何やってんの?」

 言いながら深成の前の棚を見たあきは、ははぁ、と口角を上げた。

「バレンタインかぁ。深成ちゃん、もしかして、例の先生にあげるの?」

「う、うん。そのつもり」

 こくりと素直に頷く。
 深成は少し前から家庭教師をつけられた。
 その先生が、とても格好良いのだという。

「珍しいよね、深成ちゃんがそんなこと言うの。結構誰にでも懐くけど、誰かを好きだとかいう話は、全然興味なかったのに」

 棚にあるバレンタイン用のお菓子本を適当に捲りながら、あきが呟いた。

「わらわだって初めてだよぅ。んでも先生、普段素っ気ないのにさ、二学期の最後のテストが良かったし、通知簿も上がってたから、クリスマスにプレゼントくれたんだ」

「へぇ。そんなことされたら、萌えるかもね〜」

 少し目尻を下げながら、あきが深成をじろじろと見た。
 が、特に目に付くところには、これというものはない。
 何となく、クリスマスのプレゼントといえばアクセサリーのように思っていたが、違うのだろうか。

「何貰ったの?」

 あきの質問に、深成はごそごそと、持っていた小さいポシェットを探った。

「これっ。可愛いでしょ?」

 何かポシェットが不自然に膨らんでいると思っていたが、なるほど、これが入っていたのか。
 あきは目の前に突き出されたブツを、まじまじと見た。
 にこにこと深成が大事そうに握り締めているのは、15cmぐらいの犬のぬいぐるみ。

「この子、これぐらいのブーツに入っててね、ブーツには、お菓子がいっぱい詰まってたんだよ。この子が蓋でね〜」

 なるほど。
 クリスマスによくある、ブーツ型のお菓子の詰め合わせか。
 確かに深成は好きそうだが。

「……深成ちゃん〜。折角好きな人が出来たんだから、もうちょっと色気付きなよ」

 あきが胡乱な目を向ける。
 あきも深成もまだ小学生だが、高学年だ。

 今時の小学生というのは、多分に色気付いているものなのに、深成は恐ろしく時代の波に乗っていない。
 低学年と変わらない。

「大体さぁ、その先生だって、大人でしょ? 何歳だったっけ? 大学生だったよね? だったらもうちょっと、女心をわかってると思うんだけど」

「ええ〜? よっくわかってるじゃん。お菓子は美味しかったし、この子は可愛いし」

 それは女心じゃなくて深成の心だ、と心の中で突っ込み、だがあきは、再び目尻を下げた。

---そっか。そういえば、深成ちゃんが先生のこと好いてるんだから、深成ちゃんのことを、よりわかってたほうが良いのか---

 あらあらこれは、と、あきはほくそ笑んだ。