風の放浪者


「ですが、司教様はお忙しいです。ですから、別の日に……今日は、お祭りが行われています」

「では、祭りはいつまで?」

「明日で、終わります。その……私は……これで、失礼致します。今日は、有難うございます」

 迷いが生じた中でユーリッドと会話を続けていけば、今まで信じてきたことが根底から覆されてしまう。

 そのような気持ちがあった故、エリザはユーリッドの前から姿を消してしまう。

 これこそ、人間本来の姿。

 また、彼等は何も知らない。

 何も理解していない。

(脆い信仰だな)

 内心そう思いつつ、ユーリッドは礼拝堂を後にした。


◇◆◇◆◇◆


 ユーリッドと別れたエリザは、廊下で中年の男と出会う。

 その人物は、多くの者達の信頼を集めている司教ドロイト。

 反射的に相手を呼び止めると、エリザは恐る恐る疑問をぶつける。それは先程ユーリッドが質問をしてきた内容そのもので、彼女は真実を知りたかった。

「何故、そのような質問を?」

「私は、未熟者です。それ故、教えに疑問を抱いてしまいました。本当に、申し訳ありません。修行不足です。ですので、司教様より正しい内容を教えて頂きたく、失礼ながらお声を……」

「いや、そのことは構わない。迷った者を正しい方向に導くのが、我々の役目だ。だから気にしなくていい。君が質問していた答えだが、竜という生き物はこの世界に存在している」

 ドロイトの衝撃的な事実にエリザは息を呑み、反射的に司教の顔を凝視する。

 エリザは竜という生き物は架空の中に存在しているものだと思っていたからこそ、ユーリッドの質問に正しい反応ができなかった。

 だからこそ言葉が続かず、悪いと思っていながら逃げ出してしまった。

 司教の言葉は、竜を肯定している。それにより、エリザは竜の存在を信じようと思いはじめた。

 相手は正しい教えを広めていく存在であり、絶対に嘘を言わないという確証をエリザは持っていた。

 だがひとつの疑問が解決したと同時に、新しい疑問が生まれてしまう。〈時の眠り〉と言われている出来事は、竜が関係しているのか。

 その真実を、エリザは知りたかった。