徐々に焦り出す村田さんに、俺はにこりと笑顔を向けた。



「後のことは任せてください。俺がより良い社食にしていきますから。利用する社員にとっても、働く調理員にとっても」



些細な仕返しのつもりで嫌味を返すと、彼は「た、頼んだよ」とぎこちない笑みを浮かべ、そそくさと足早に立ち去っていった。

俺達のやり取りを静観していた小野は、まるで呼吸を止めていたかのように、はぁーっと息を吐き出す。



「お前さぁ、ヒヤヒヤさせんなよ! いつも穏和なくせしてたまに牙剥くから、こっちが動揺するわ」

「俺、好きなのかも。そういう攻め方が」



ケロッとして微笑む俺に、小野は呆れたように笑っていた。

そして、さっきよりもスッキリして美味しく感じるコーヒーを飲みつつ、小野が言う。



「でも俺は今回のこといいチャンスだと思うよ。これで成果をあげたら、総務部長もエリアマネージャーに昇進させてくれそうな気がする」

「どうだか。ま、期待しないで頑張るよ」



とりあえず今は、与えられた仕事をこなそう。

努力は報われないことが多いし、真面目な人間が損をすると言われる時代だ。

なかなか出世出来ない俺も、世渡り下手で要領が悪い負け犬なのかもしれない。


……だが、社会的ステータスが高い者だけが勝ち組ではないはずだ。

何の努力もせずに、満足した結果を手に入れることもないだろう。

毎日ひたむきに生きていればいつか幸せを掴めると、そう信じていたい。