島渡り

少女は、僕の話を黙って聞いていた。

そして、僕の話が終わると、ゆっくりと座りなおして、僕の方を見た。
 
「どうしてそこまで神という存在を嫌うのです。」
 
少女の手には、桃色珊瑚の数珠が添えられていた。

それは、少女の白く清い肌を引き立てるもので、僕はそれを、彼女にとっての「accessory」として認識していた。
 
「存在しないからだ。
存在しないものを望むことは、愚かだ。例えば、夢に見た人を好きになり、思い続けることができるだろうか。
所詮は、この世にいないものであり、いくら願っても叶わない。
それはただ虚しい、愚かな絵空事だ。」
 
「どうして神はいないと思われたのですか。」
 
このただ狭い和室で、少女と話している時間が、僕にとって大切なものであった。

少女の話す一言、一言。少女の仕草全てを、僕は覚えていられた。
 
「神を信じた者が呆気なく死んだのだ。」
 
言ってしまったから、今、話してはいけないことだと思った。

まだ十五にしかならない少女に、生きていくうえで島の人たちが一番必要としているものを否定してはいけないことだ。

もし少女が、それを否定するならば、それは、少女が立派な大人になった時、自分で決めることだ。

「神は、人々が必要とする限り、存在します。人々が信じている間は、存在しなくてはならないのです。」

 
少女はそう言って、立ちあがり、僕がふちに置いた空の湯呑を、盆にのせた。
 
「また伺います。」そう挨拶して、彼女は襖をあけ、静かな足音を立てながら、去って行った。

僕は思う。
 
神様に頼らずとも、人は何かに頼ればいい。

いや、本当にあるべき人間というものは、自分の力で地を踏みしめるものだ。