島渡り

ある日の陽が暮れる時刻。僕は筆を置き、珍しく外へ出かけた。

寝巻きの浴衣姿のままだが、この島では、こんなかっこうで外を歩いても、周りの景色に溶け込むため、気楽に暮らすことができる。

実家では、いつも二つ年下の妹が、「外へ出る時には、きちっとした服装をしなくちゃ駄目でしょ。」とうるさい。

ここでは、僕の恰好や身の周りのことを構う人は、あの少女だけだ。

そして彼女は、僕を鬱陶しいと思わせない。
 
僕は実家のことを思い出しながら、太陽の見える丘の方へと登って行った。

ちらほらと建っている家も、全く見えなくなった寂しい場所。
そこに立てば、太陽がすぐそこにあるのだった。
 
そこに足を踏み入れた時、僕は予期せぬ人と出会った。
 
少女だ。
 
彼女は、珊瑚の数珠を、太陽へとかざし、瞳を閉じたまま立っていた。
何やら思いつめたような表情であった。

それは僕には見せない苦悶がにじみ出ていて、僕は見てはいけないものを見てしまったように思えた。

そして、彼女に気付かれぬよう、僕は丘を降りた。