店の仕事をしていた夕方だった。
急に店の電話が鳴った。


「はい。若月フラワーショップです。」

「雛……香織が危ない。来て。」

「え……。」


作りかけの花束が手から離れていった。
床に散らばるヤマブキの黄色が、目に染みた。


慌てすぎて、何をすればいいのか分からない。
私は、とりあえずそこにあった、カーネーションの花束を抱えて、店を出た。


病院はそれほど遠くないところにある。
自転車に飛び乗って、思い切り漕いだ。

強すぎる、思いを込めて漕いだ。


どうしてこうなってしまうんだろう……。
何故だかみんな、私のそばからいなくなってしまう。

香織さんまで―――


いつの間にか、私の心の中に入り込んできた香織さん。

私を好きだと言ってくれた香織さん。

いろんな香織さんが、私の中を占めていく。


いつまで経っても、病院は見えてこなかった。