みどりさんに会ったのはその頃だった。
長期にわたる無断欠勤で仕事はクビになり、あてもなく街を歩いていた時に、一枚の張り紙を見つけたのだ。
私は吸い寄せられるようにその店に向かった。


『フラワーショップ若月』


花の名前に詳しいわけでも、特別好きなわけでもなかった。
ただ、何か運命的なものを感じたのかもしれない。

いや、私はその時、単に居場所が欲しかっただけだったろうか。


「あの……すみません。」

「はい?あ!もしかしてここで働いてくれる?」


その時出迎えてくれたのがみどりさんだった。
みどりさんはぱっと顔を輝かせて、キラキラした目で私を見つめていた。


「あの、面接……あ!履歴書とか必要でしたか?すみません、出直して、」

「いいのよ、そんなの。採用!」

「え……。」

「いいから!ほら、じゃあこのお花の整理手伝って!」


そうしていつの間にか、私はこの店で働くようになった。

みどりさんは何も訊かなかった。
だから私は、すべてを忘れていられた。
安心してみどりさんのそばにいられた。


みどりさんが私のすべてだった。