俺の話を聴いた後、三人はしばらく顔を上げなかった。
泣いていたんだ。
「春岡先生、そんなつらいこと、抱えていたんですね。」
暫くして、鼻声の真衣が言った。
そう、ここにいるのは北原真衣、逢沢晴樹、そして横山祐子。
真衣と晴樹はすでに結婚している。
そして祐子は、全盲になった後も真衣と共にゴールボールの選手として頑張っている。
彼らにはたくさんの思い出があって、卒業後もこうして集まって飲むような関係になった。
自分の生徒とこうして交わることは、俺にとって珍しいことだ。
「おいおい、こんな雰囲気にならないでくれよ。俺は、お前らのおかげで吹っ切れたんだからさ。」
そう、その言葉は本当だ。
晴天の霹靂のように僕の前に現れた、沙耶によく似た生徒の真衣。
そして、俺と同じ過ちを繰り返そうとするかのような、危なっかしい晴樹。
その二人とともに悩み、苦しみ、そして結局、二人は幸せになった。
よく似ていた俺たちなのに、結果は全く違った。
当たり前なんだ。
だって、真衣は沙耶じゃない。
俺は、晴樹じゃないんだから―――――
「先生も、吹っ切れたならそろそろ身を固めたらどうですか?」
「お前なあ、よくも偉そうに。」
晴樹も、大人のような口をきくようになったもんだ。
「私が、先生のそばにいてもいいですよ。」
「そう?」
祐子は、中等部の頃からここにいた。
カウンセリング室に、いつだって陣取っていたね。
あの頃から、君の好き好き光線には、大分弱っていたよ。
だけど、君がいなくなって俺は、なんだか寂しいような気がするんだ。
気のせいかもしれないけれど。
「祐子でもいいかもなー。」
満更、本心でないわけでもない。
でも、祐子は笑って言った。
「嘘だよ、先生。私も実は結婚するの。」
えっ、と皆が声を上げた。
「黙っててごめんね。実は、ずっと付き合ってた人がいて。」
「おめでとう!」
口々におめでとう、という声が飛び交う。
俺は、一番最後に口を開いた。
「おめでとう。」
いいんだ、これで。
俺は、一生分の愛を以て、沙耶を愛したのだから――――――