そばにいたこと

そんなこんなで、一週間の合宿は瞬く間に過ぎていった。
一日目は食事の準備を手伝った僕だったが、二日目からそれは叶わなかった。
何故なら、時間を惜しんで練習に励んでいたから。

一日目の夕飯の後、監督は僕を呼び出した。

僕の名前は、僕が中学生の頃から聞いていたと、監督は言った。
そして、県大会のことも。

最後の一球。
思いを込めたストレートで、三振を奪ったこと。
それで、僕たち桐生北中が、初めて県で優勝した。

監督は全部知っていた。
だから、僕を引き抜いたらしい。


「君を、夏の予選の先発に指名する。」


余りにも突然のことに、僕は驚いた。
まだ一年の僕が投げさせてもらえるなんて、思ってもみなかった。
それに、その予選の一回戦は、この合宿が終わった後、すぐに待ち構えているから。

毎日欠かさずにランニングをしていたし、体力は中学生の頃よりも向上したと思える。
だけど、調整とよべるようなことはまだしていなかった。

焦っていた。
僕には時間がなかった。

初めての高校野球という舞台で、中学生の頃よりずっと重圧があって。
甲子園につながる、大事な一歩。
僕が壊すわけにはいかない。
期待に応えなければならない。

焦りが僕を一気に追い詰めて、みんなが休んでいるときも練習に励んだ。
僕が得意とするストレート。
スピードのあるストレート。
絶対にミスは許されない。

いつも余裕に構えている僕が、このときに限っては憑りつかれたように必死に練習した。
無理に無理を重ねて。
今思えば、何てバカだったんだろう、と思う。
自分の球を投げれば、それでよかったのに。

何度思い出しても、あの頃は僕にとって、全く優越感に浸れるような思い出ではない。
ただ苦しいだけの、闘いの日々だった。