それは突然の出来事だった。

閉ざされた部屋に響く、古い懐中時計のカチコチした一定のリズム。

それを抱きしめるようにして抱えた『それ』は、ぽかんと口を開ける間抜け面の少女・【神倉 美琴】(かぐら みこと)をジッと見つめている。


「迎えに来たよ、迎えに来たよ」

「は…?いや、待て。待て待て待て。ちょっ、なんで羊がいんの?」

「迎えに来たよ、迎えに来たよ」


『それ』は羊だった。
まるでヌイグルミのようなデフォに、美琴は動揺を隠せない。

というか羊、の、ヌイグルミ(らしいもの)が喋ってる。可愛い以前に、謎だ。

カチコチとうるさく懐中時計は鳴り続け、美琴の不安定な情緒を苛つかせた。


「ミコト。時間、時間だよ」

「はあ?なんの時間さ。つーかあんたこそ何?窓割るとかッ、おまッ、弁償しろや!」


激しく声を荒げながら、美琴の指差す先には割れた窓。

まだ肌寒い季節。びゅうびゅうと部屋に入り込んでくる風が、冷たい。

女のカケラもない美琴は「ぶぇっくし!」とくしゃみを飛ばし、鼻をすすりながら羊を睨んだ。