「私がどうかしたか?」
突然背後から声をかけられ、悠里は声もなく飛び上がった。
心臓をばくばく言わせながら振り向くと、そこにいたのは、悠里とあまり年の変わらないような、思わず目を奪われてしまうくらいの美少女だった。
「え?あなたが、マリュエル・フォッセさん……?」
戸惑う悠里に、美少女はふんと鼻を鳴らした。
「だったら、どうした?」
「い、いえ、あの……」
すでに気迫負けをしている悠里。
道端で頭を抱えているウリエルのことすら目に入らない。
「おっ。マリー。そのお嬢さん、お前に用があるのか」
「マリーって呼ぶな。お前らは、また私が留守なのをいいことに、茶を濁していたな?」
マリュエル・フォッセは剣のある視線を男性たちに向けた。
「い、嫌だな。マリー」
「そうだよ。ちょっと休憩していただけだよ」
おろおろと立ち上がる、どう見ても年上の男性たちに、マリュエル・フォッセは口角を吊り上げて、にたりと笑った。
その笑みに、男たちが怯む。
「今は繁忙期ではないからと暇を弄んでいるから、いつも採算が合わなくなるんだ。日頃から、真面目に仕事しろ!でなければ、やめてしまえ!」
「え、ちょっ……。マリュエルさん?」
マリュエル・フォッセの厳しい言葉に、悠里でもきゅっと胸を痛めたのに、言われた当の本人たちはと目をやると、思った通り、顔を曇らせ俯いていた。
マリュエル・フォッセはふうと息をついて、黙り込んだ男性たちに近付いて行くと、そのうちの一人の肩をぽんと叩いた。
「あんたたちは、それぞれ自分の工房を持っていてもおかしくない位に、腕のいい職人なんだ。その腕を使わないで、どうする?時には遊びも必要だろう。けど、あんたたちは、あんたたちの才能を使う為に生きてるんだ。その才能を、私に貸してくれていることに感謝しているよ。ありがとう」
「「「マリー!!」」」
感激のあまり涙を浮かべて、男性たちはマリュエル・フォッセを取り囲んだ。
「俺、流石に休憩し過ぎたよ。これからは、マリーの為にしゃかりきに働くからさ」
「おう。頑張れよ」
「マリー。この前の貴族さまの依頼。やっぱり俺、やれそうな気がして来た。任せてくれるかい?」
「ああ。あれはお前じゃないと出来ない仕事だからな」
男たちは口々にマリュエル・フォッセに頑張る宣言をしながら、土間から続く部屋に入って行く。
まるで童話に出てくる七人の小人のようだと思いながら、悠里はその場に突っ立っていた。
そこには、マリュエル・フォッセと悠里しかいなくなった。
くるりと彼女が悠里に向き直った。
長く真っ直ぐな黒髪がふわりと広がり、まるで背後に薔薇が咲いたかのような錯覚を覚えた。
およそ工房に似つかわしくない、その光景に、悠里はこくりと息を飲んだ。
「貴様。用があるなら、早く言え」
細い腰に両手をあてて、マリュエル・フォッセは小柄な悠里を見下ろした。
「用があるから来たんだろう?」
「あ、あの。あなたは本当にマリュエル・フォッセさんなんですか?」
「しつこい」
大きな目の中の藤色の瞳をきらりと光らせて、マリュエルはにたりと笑った。


