マリュエル・フォッセの工房は、周囲に立ち並ぶ工場に比べると、随分こじんまりした建物だった。
しかし、小洒落ている。
外観は煤けた煉瓦で古びて見えるけれど、またそれがいい味を出していて、古民家風の趣を醸し出している。
近代的な工場の中にあって、この場所だけが別の空間であるような、そんな気持ちになる建物だった。
「なんか、可愛い……」
外国の田舎にあるような、その建物に、悠里はしばし感激していたが、「悠里、そろそろ」とウリエルに促され、自分がついつい現実逃避していたことに気付いてしまった。
深呼吸して、一歩踏み出す。
ウリエルはその場から動こうとしない。
悠里はそっと振り向いて、愛想笑いを浮かべた。
「ウリエルさん?」
「俺はここで待ってるから、行っておいで」
「ですよね〜」
仕方ない。腹を決めなくては。
悠里はそろそろと建物の入り口に近付いて行った。
扉は開かれていて、中から人の話し声がする。
そおっと覗いてみると、広々とした土間に、男性が数人、車座になって話をしていた。
「ごめんください」
聞こえるか聞こえないかの、か細い声で訪いを入れたが、案の定彼らには届かなかったようだ。
弾む会話に、悠里の気持ちが萎える。
(だめだめ!頑張るんだから)
そう気を取り直し、もう少し大きな声を出してみると、男性の一人がこちらに気付いてくれた。
「おっ。お嬢ちゃん。どうしたんだ?」
男性の野太い声に悠里は顔を引きつらせたが、内心の動揺を押し隠して会釈すると、「あの。マリュエル・フォッセさんはいらっしゃいますか?」と震える声を出した。
それは蚊の鳴くような声で、耳に手を添えて「なんて言ったんだ?」と聞き返している者もいる。
あれだけ懸命に声を出したのに聞こえなかったのかと、悠里は内心がっくりしながら、もう一度マリュエル・フォッセのことを尋ねようと口を開いた。
しかし、小洒落ている。
外観は煤けた煉瓦で古びて見えるけれど、またそれがいい味を出していて、古民家風の趣を醸し出している。
近代的な工場の中にあって、この場所だけが別の空間であるような、そんな気持ちになる建物だった。
「なんか、可愛い……」
外国の田舎にあるような、その建物に、悠里はしばし感激していたが、「悠里、そろそろ」とウリエルに促され、自分がついつい現実逃避していたことに気付いてしまった。
深呼吸して、一歩踏み出す。
ウリエルはその場から動こうとしない。
悠里はそっと振り向いて、愛想笑いを浮かべた。
「ウリエルさん?」
「俺はここで待ってるから、行っておいで」
「ですよね〜」
仕方ない。腹を決めなくては。
悠里はそろそろと建物の入り口に近付いて行った。
扉は開かれていて、中から人の話し声がする。
そおっと覗いてみると、広々とした土間に、男性が数人、車座になって話をしていた。
「ごめんください」
聞こえるか聞こえないかの、か細い声で訪いを入れたが、案の定彼らには届かなかったようだ。
弾む会話に、悠里の気持ちが萎える。
(だめだめ!頑張るんだから)
そう気を取り直し、もう少し大きな声を出してみると、男性の一人がこちらに気付いてくれた。
「おっ。お嬢ちゃん。どうしたんだ?」
男性の野太い声に悠里は顔を引きつらせたが、内心の動揺を押し隠して会釈すると、「あの。マリュエル・フォッセさんはいらっしゃいますか?」と震える声を出した。
それは蚊の鳴くような声で、耳に手を添えて「なんて言ったんだ?」と聞き返している者もいる。
あれだけ懸命に声を出したのに聞こえなかったのかと、悠里は内心がっくりしながら、もう一度マリュエル・フォッセのことを尋ねようと口を開いた。


