異世界で家庭菜園やってみた

「ええ。あなたがなさっている、あれやこれやのことを……」

ドンッと机が叩かれた。

「ひえっ」

「おめえ。人が黙って聞いてやってるのに、脅す気か?」

「え、え、ちょっ……」

態度の急変したヤンと、飄々とした表情を崩さないウリエルとを、悠里はおろおろと見比べた。

「そんなつもりはないさ。お前があんまりかしこまってるから、からかいたくなっただけで……」

「ふん。相変わらずだな。ウリエル。新顔がいるから、ちょっと丁寧に対応してやっただけだ」

「ああ、なるほど」

ウリエルはくすりと笑うと、悠里に「こういう奴だから」と囁いた。

「おまっ。こういう奴ってどういう奴だよ」

「あれ?聞こえた?」

「ふ、ふん。お前の趣味も悪くなったな。こんなちんくしゃ、連れて来るんだから」

「ち、ちんくしゃ……」

そんな言葉、久しぶりに聞いたよ……。

「悠里は可愛いよ」

「はあ?」

「悠里は可愛いんだ」

ウリエルの言葉にヤンは唖然としていたが、「があ。すっごい、かゆいい」と手や背中をぽりぽりし始めた。

「お前がくっさいこと言うから、じんましんが出たじゃねえか」

「だって、ほんとの事だからさ。しょうがないだろ。それより、さっきの話」

ヤンはまだぽりぽりしながら、「だったら、そいつの本気、見せてみろよ」と言い放った。

「本気?」

「ああ。その小娘の本気だ。それなりのやる気がなけりゃ、俺は一切手を貸さねえぞ」

凄みのある視線に悠里は身を小さくしたが、ウリエルはそんな悠里の肩をさり気なく引き寄せて、ヤンに微笑んだ。

「急いでるんだ」

「こいつを」

ヤンは一枚の紙片を悠里に向かって放った。

「え?」

拾い上げると、そこには誰かの名前らしきものが書いてある。

「腕のいい職人で、しばらく納期にゆとりがあるのは、そいつだけだ。そいつを小娘一人で説得してみろ。ウリエルの助けが少しでも入ったと分かったら、そこでこの話は終わりだ。いいか?小娘一人で、だぞ」

「マリュエル・フォッセ。市場でも、よく値札に名前が書かれているな」

「わたし、一人で?」

「無理だ~って顔しているな。端から諦めた方がいいんじゃねえか」

「ユーリ?」

ウリエルの心配そうな顔と、ヤンの半ば面白がっているような顔。

悠里はぷるぷるとかぶりを振って、ウリエルを見た。

「わたし、やります」

ここまでウリエルに助けて貰って来たのだ。

正念場で自分の力を試せなくて、どうする?

悠里は紙片を握り締め、挑むようにヤンを睨んだ。

「わたし、絶対、鍬(くわ)を手に入れますからっ!!」

顔を紅潮させて、そう宣言する悠里を、ヤンはぽりぽり腕を掻きながら見つめ返していた。