その部屋は、外の雑然とした事務室とは比べ物にならないくらい整理整頓が行き届いていた。
全ての物が、あるべき場所に納められている。
それは、そのまま、この部屋の主の性質を表しているように思えた。
その人は執務机の向こうで書類を見ていた。こちらが部屋に入っても一瞥もくれない。
悠里はその態度に何となくむっとしたけど、そこはぐっと堪えて、ウリエルが何か言うのを待っていた。
「ご無沙汰しています。ヤン・ノーバック会頭」
ようやく書類から顔を上げて、こちらを向いたノーバック会頭は、ニコリともしないで、手にした書類を机の上に放り出した。
「君か。ウリエル。ロンドベル子爵などと言うから、誰かと思った」
「ご冗談を。お分かりの筈ですが?」
ははと乾いた笑いを漏らすウリエルは、思いの外やり辛そうだった。
(ウリエルにも苦手な人っているんだ……)
ヤン・ノーバックはまだ若そうに見えるが、如何にも切れ者と言った風貌をしていた。
細面の顔は秀麗だが、柔和な印象は一切受けなかった。
鳶色の髪をきっちり撫で付けていて、一片の乱れも許さないという感じ。
そして何よりも印象的だったのは、片目だけを眼帯で覆った、隻眼であったということだ。
顕わになっている片方の眼は鋭く、まるで肉食獣のように、悠里達を見据えていた。
「それで?君がわざわざ来たのには、余程の訳があるのだろう?」
「ええ。実は……」
ウリエルが細かに説明している間、ヤン・ノーバックの視線は悠里に注がれていた。
気のせいではない。
彼は悠里に目を据えながら、にやにやと口の端を歪めて笑っている。
そんな嫌味な態度すら、彼にとても似合っていて、悠里はこくりと喉を鳴らした。
「という訳なのです」
ウリエルが話し終えると、やっとヤンの視線が悠里の上から外れた。
悠里は気付かれないようにほっと息を吐いてウリエルを見上げると、心配そうなウリエルの瞳がそこにあった。
「!」
けれどウリエルは何も言わず、小さく微笑んだだけで、すぐに視線をヤンに戻してしまった。
「如何ですか?ノーバック会頭」
「君の説明は分かったが、ウリエル。それで、我々にどんな益がある?」
「我々……ではなく、あなたに、と申し上げた方がいい」
「ほう。この俺に?」
ヤンの鋭い眼が、一層凄みを帯びた。
全ての物が、あるべき場所に納められている。
それは、そのまま、この部屋の主の性質を表しているように思えた。
その人は執務机の向こうで書類を見ていた。こちらが部屋に入っても一瞥もくれない。
悠里はその態度に何となくむっとしたけど、そこはぐっと堪えて、ウリエルが何か言うのを待っていた。
「ご無沙汰しています。ヤン・ノーバック会頭」
ようやく書類から顔を上げて、こちらを向いたノーバック会頭は、ニコリともしないで、手にした書類を机の上に放り出した。
「君か。ウリエル。ロンドベル子爵などと言うから、誰かと思った」
「ご冗談を。お分かりの筈ですが?」
ははと乾いた笑いを漏らすウリエルは、思いの外やり辛そうだった。
(ウリエルにも苦手な人っているんだ……)
ヤン・ノーバックはまだ若そうに見えるが、如何にも切れ者と言った風貌をしていた。
細面の顔は秀麗だが、柔和な印象は一切受けなかった。
鳶色の髪をきっちり撫で付けていて、一片の乱れも許さないという感じ。
そして何よりも印象的だったのは、片目だけを眼帯で覆った、隻眼であったということだ。
顕わになっている片方の眼は鋭く、まるで肉食獣のように、悠里達を見据えていた。
「それで?君がわざわざ来たのには、余程の訳があるのだろう?」
「ええ。実は……」
ウリエルが細かに説明している間、ヤン・ノーバックの視線は悠里に注がれていた。
気のせいではない。
彼は悠里に目を据えながら、にやにやと口の端を歪めて笑っている。
そんな嫌味な態度すら、彼にとても似合っていて、悠里はこくりと喉を鳴らした。
「という訳なのです」
ウリエルが話し終えると、やっとヤンの視線が悠里の上から外れた。
悠里は気付かれないようにほっと息を吐いてウリエルを見上げると、心配そうなウリエルの瞳がそこにあった。
「!」
けれどウリエルは何も言わず、小さく微笑んだだけで、すぐに視線をヤンに戻してしまった。
「如何ですか?ノーバック会頭」
「君の説明は分かったが、ウリエル。それで、我々にどんな益がある?」
「我々……ではなく、あなたに、と申し上げた方がいい」
「ほう。この俺に?」
ヤンの鋭い眼が、一層凄みを帯びた。


