異世界で家庭菜園やってみた

どのくらい眺めていたのか。ふと我に返った時、髪が少し濡れたままなのに気付いた。

(わたしったら、見惚れてる前に起こしてあげなきゃ!)

このままでは風邪をひいてしまう。

あんまりよく寝ているから気が引けるけど、仕方ない。

そっと彼の肩を叩いてみた。

「ウリエルさん?」

囁くような声を掛けたが、だめだ。

もう少し大きな声を出してみた。

「ウリエルさん。起きて下さ~い」

とんとんと強めに叩いてみる。

すると彼が「ん……」と身もだえ、薄く目を開けた。

「ウリエルさん?」

彼に顔を寄せ、覗き込む。

すると彼の焦点が悠里の顔に定まった。

「うわっ!!」

似つかわしくない大声を上げて、ウリエルが飛び起きた。

心臓の辺りに手を当てて、悠里の顔を凝視しているウリエル。

その白い肌が見る間に赤くなっていく。

「ゆ、悠里?何して……」

「……ウリエルさん。髪を乾かさないと……」

「え?髪?」

戸惑ったように言って、ウリエルが自分の髪に手をやった。

「ああ。……別に、かまわないよ」

「だめです。いくらウリエルさんでも、髪が濡れたまま、こんなとこで寝てたら絶対風邪ひきますから。今からでも乾かして来てくださいよ」

「いいよ。放っとけば乾くから」

「それじゃだめだって、言ってるんです!」

悠里は立ち上がると、腰に手を当てて、ウリエルを見下ろした。

「もう。変なとこでずぼらなんですね?ウリエルさんがちゃんと乾かして来るまで、わたし、エステ行ってますから!」

悠里はぷりぷり起こりながら、休憩室を出て行った。





その姿を見送ったウリエルはと言うと……。

しばし呆然とした後、ぷっと吹き出した。

「行くんだ。エステ……」

髪を乾かすのを見届けなくてもいいのかな。

長椅子に座って上履きを履きながら、ウリエルの頭には先ほどの光景が甦る。

まだ心臓がばくばくいっていた。

顔が火照っているのも気のせいではないだろう。

一瞬、期待してしまった自分がいる。

悠里の顔を間近に見た時。

つい彼女の唇に目をやったことは否定できない。

「俺もいい加減、ダサいよな……」

そうひとりごちて、ウリエルは髪を乾かすべく脱衣場へと向かうのだった。

そんなウリエルの悶々とした心境など知る由もない悠里は……。

「はあ……極楽極楽……」

エステティシャンの神の手で、今までにない、極上のワンデイ健康ランドを満喫していた。