異世界で家庭菜園やってみた

そろそろと濡れた板間に足を踏み入れる。

湯気が立ち込めた浴場内はほんのり温かく、悠里は顔を綻ばせた。

「この世界で温泉に入れるなんて!」

体を一通り流し終えると、悠里はタオルを体に巻いて浴槽の方へ向かった。

板間から石造りの床に変わると、目の前にジャングルが広がった。

大きな葉の、背の高い植物たち。

元の世界の、熱帯の植物とよく似ている。

その葉には蒸気が付いて、てらてらと光っていた。

「うわあ」

ジャングルの向こうを見てみると、そこには木組みの浴槽。

「いかにも、ジャングル風呂って感じだね」

ほくほく顔で浴槽に足を伸ばした。

「うん。ちょうどいいお湯加減」

チャポンと肩まで浸かれば、今までの疲れが全部溶けて行くようだった。

「ふわあ。極楽極楽~」

他にもたくさん客がいたけれど、周りを気に囲まれている上に、プールのように広いから気にならない。

悠里は瞼を閉じて、一人を満喫していた。

その後も薬湯風呂だとか、ジャグジー、サウナなどを渡り歩いて、更衣室に戻って来た時にはやや上せ気味だった。

ふらふらしながら体を拭いた。

「うん。お茶飲もう」

ウリエルはもう出ているだろうか。

ゆったりとしたワンピース型の館内着に着替えてから更衣室を出ると、あらかじめウリエルと待ち合わせることにしていた休憩所に向かった。

そこには長椅子と衝立が交互に並んでいて、何人かの人が横になって休んでいるようだった。

その中の一つだけ、長椅子から人の足がはみ出ている物があった。

(足の長い人だな……)と思いながら何気なく衝立の陰から覗いて見ると、ウリエルだった。

「わっ。ウリエルさん」

思わず声を上げたが、彼は反応しない。

どうやら眠っているらしい。

(疲れているのかな)

心配になって顔を覗くと、穏やかな寝顔がそこにあった。

(睫毛、長っ……!)

美形なことは分かっていたけれど、こんなに一つ一つの造作をまじまじと見たことはなかったから、長いだけでなく量も密度も濃い睫毛であるとか、色気がだだ漏れしている引き結ばれた唇とかを今まで気に留めたことはなかった。

なのに一旦意識してしまうと、そこにしか目がいかなくなって、悠里は飽きることなくウリエルの寝顔を眺めてしまっていた。