チェサート国の第二の都市に着くと、まるで祭りのような賑わいだった。
街が華やかに飾られ、人々がとても晴れやかな表情をしていた。
それを馬車の中から眺める悠里に、それまで何も話さなかったウリエルが、
「もうすぐ皇帝が即位して五周年の式典があるからな。チェサートの国民は、皇帝に好意的だから」
と教えてくれた。
それは、いつものウリエルの話し方で、悠里はほっとしながら笑顔で答えた。
「お祝いなんですね」
「ああ。その式典には皇帝も行幸するらしいが、その頃には俺たちはリュールにいるだろうな」
「皇帝かあ」
(きっと、いかついおじさんなんだろうな)
そう思い、そうウリエルに言うと、彼は「いや」とかぶりを振った。
「皇帝は確か俺と同い年だ」
「え、そうなんですか?」
「ああ。二十五だな。即位したのは二十歳の時だ」
「そんなに若い人が、領土を広げて行ったんですね」
そんな人なら、いつかディント王国も狙いそうだった。
「その懸念は、国の上層部にもあるよ。だから、より頑なになってしまっている」
ふとウリエルと目が合った。
悠里は(あっ)と思う間もなく、咄嗟に逸らしてしまった。
無意識だったけれど、それはウリエルに対してとても失礼だったと自分でも思う。
けれど、額の一部分がジンジンと反応する限り、彼のことを意識しないではいられなかった。
二人きりの空間に耐えきれず、(早く馬車よ停まって!)という願いが通じたのか、その時馬車が停車した。
「宿に着いたな」
ウリエルが手配してくれていた宿は、一見して一流だと分かる外観だった。
石造りの壁には、細かい装飾が施され、お城のようだった。
すぐさま従業員が「よくおいで下さいました。子爵さま」と声を掛けて来た。
「ああ。一晩だが世話になる」
ウリエルは悠里を促して、宿の中へ入って行った。
通された部屋は、宿の中でも一番いい部屋だった。
コウメさまの邸の自室よりも、はるかに高級そうな調度類が並んでいる。
「凄い……」
部屋に入った瞬間感嘆の声を上げた悠里に、ウリエルは微笑みながら、「お前はそちらの寝室を使うといい。俺はこちらを使うから」と言って、悠里にあてがわれた方の部屋の扉を開けた。
「わっ!可愛い」
この世界に来て初めて目にする色調に、悠里は目を瞠った。
白とピンクを基調とした内装に、さまざまな花が活けてある花瓶がいくつも置いてある。
「一人は女の子だと伝えてたから。でも、ちょっとやり過ぎな感があるな」
「ううん。いいです!嬉しい!!ほんとにお姫さまになったみたい」
十八の学生にしては、いささか幼い感想のような気もするが、悠里は割と少女趣味だった。
乙女なら一度は憧れる、レースとフリルの世界に、彼女の妄想が炸裂する。
「うん。まあ、気に入ったのなら良かった」
悠里の浮かれように、いささか困惑気味のウリエルは、早々にその部屋を出て行った。
「せっかくだから、夕食は外で食べよう」という言葉を残して……。
街が華やかに飾られ、人々がとても晴れやかな表情をしていた。
それを馬車の中から眺める悠里に、それまで何も話さなかったウリエルが、
「もうすぐ皇帝が即位して五周年の式典があるからな。チェサートの国民は、皇帝に好意的だから」
と教えてくれた。
それは、いつものウリエルの話し方で、悠里はほっとしながら笑顔で答えた。
「お祝いなんですね」
「ああ。その式典には皇帝も行幸するらしいが、その頃には俺たちはリュールにいるだろうな」
「皇帝かあ」
(きっと、いかついおじさんなんだろうな)
そう思い、そうウリエルに言うと、彼は「いや」とかぶりを振った。
「皇帝は確か俺と同い年だ」
「え、そうなんですか?」
「ああ。二十五だな。即位したのは二十歳の時だ」
「そんなに若い人が、領土を広げて行ったんですね」
そんな人なら、いつかディント王国も狙いそうだった。
「その懸念は、国の上層部にもあるよ。だから、より頑なになってしまっている」
ふとウリエルと目が合った。
悠里は(あっ)と思う間もなく、咄嗟に逸らしてしまった。
無意識だったけれど、それはウリエルに対してとても失礼だったと自分でも思う。
けれど、額の一部分がジンジンと反応する限り、彼のことを意識しないではいられなかった。
二人きりの空間に耐えきれず、(早く馬車よ停まって!)という願いが通じたのか、その時馬車が停車した。
「宿に着いたな」
ウリエルが手配してくれていた宿は、一見して一流だと分かる外観だった。
石造りの壁には、細かい装飾が施され、お城のようだった。
すぐさま従業員が「よくおいで下さいました。子爵さま」と声を掛けて来た。
「ああ。一晩だが世話になる」
ウリエルは悠里を促して、宿の中へ入って行った。
通された部屋は、宿の中でも一番いい部屋だった。
コウメさまの邸の自室よりも、はるかに高級そうな調度類が並んでいる。
「凄い……」
部屋に入った瞬間感嘆の声を上げた悠里に、ウリエルは微笑みながら、「お前はそちらの寝室を使うといい。俺はこちらを使うから」と言って、悠里にあてがわれた方の部屋の扉を開けた。
「わっ!可愛い」
この世界に来て初めて目にする色調に、悠里は目を瞠った。
白とピンクを基調とした内装に、さまざまな花が活けてある花瓶がいくつも置いてある。
「一人は女の子だと伝えてたから。でも、ちょっとやり過ぎな感があるな」
「ううん。いいです!嬉しい!!ほんとにお姫さまになったみたい」
十八の学生にしては、いささか幼い感想のような気もするが、悠里は割と少女趣味だった。
乙女なら一度は憧れる、レースとフリルの世界に、彼女の妄想が炸裂する。
「うん。まあ、気に入ったのなら良かった」
悠里の浮かれように、いささか困惑気味のウリエルは、早々にその部屋を出て行った。
「せっかくだから、夕食は外で食べよう」という言葉を残して……。


