窓の外の景色は代わり映えなく、ただ過ぎて行くだけだ。

何の面白みもない筈なのに、悠里は一心に眺めていた。

この辺りも神殿の周りと同じだった。

荒地に家が点在している。

時折ある草地には家畜が放牧してあったけれど、それも大規模な牧場というのではなく、家庭で賄う分を得られるくらいの規模のものだった。

「もうすぐ国境だ」

「あ、そうなんですか」

ウリエルは大判の地図を取り出して、悠里の前に広げた。

「リュール王国に入る前に、このチェサート国に入る。ここはセントフォール帝国の属国だ」

「セントフォール帝国?」

「ああ。この際だから、この大陸の国について話しておこうか。この世界には2つの大陸があるとされているんだが、もう一つの大陸の詳細は分かっていない。海を隔てた遠い場所にあるらしいんだけど、大昔にその大陸からやって来たという人が話したという伝承でしか伝わっていないんだ。だから、もう一つの大陸については説明を省くよ。
ディントやリュールがある、この大陸は、広範囲をセントフォール帝国の領土で占められている。帝国は徐々に勢力を伸ばしていて、多くの国が侵略されたけど、チェサート国は血を流すことなく帝国の属国になった。
リュールは鉄という交渉カードで今の所なんとか帝国に見逃してもらってるみたいだけれど、この先どうなるかは分からない。
現皇帝は、自分の代で、この大陸はの覇者になりたいみたいだから」

ウリエルの話は、この世界に来て初めて聞くことで、悠里は動揺した。

「だったら、鍬なんて仕入れてる場合じゃないんじゃ?」

「チェサートが属国になってからは、ここ数年、帝国の侵略行為は止まっている。いつ起こるか分からないことに怯えてるのも癪だし、それに、ディントにはいざとなれば魔法がある。というのが、国の上層部の考えみたいだよ」

「……暢気ですね」

「うん。暢気と言えば、暢気かな」

地図を見れば、ディントが大陸の中でも、とても小さい国だということが分かる。

それに比べて、帝国の広さは大陸のほぼ全てが領土だった。