それは確かに魅力的な話だった。

けれど、コウメさまの財産に手を付けるなんて、悠里はそれだけは出来ないと思った。

「コウメさまのお気持ちはありがたいですけど」

悠里が断ろうと言葉を続けようとした時、「残していても仕方ないですもの」とコウメさまが悠里を見た。

「……」

「サベイルも、ウリエルも、自分の財産はちゃんとあるでしょう?だから、わたくしはわたくしの使いたいことに使おうと決めているの。わたくしが機織りを始めようとした時も、大公殿下がどーんと援助して下すって。それで、機織りは成功したようなものですよ。何にしても資金は必要なの。先立つものがなくては何も始められないわ。ねえ、そうでしょう。ウリエル」

「ええ、まあ。国王が援助をすると言っても、国庫からそれ程出すことも出来ないでしょうし、お祖母さまに援助をして頂ければ助かります」

「遠慮していい時と、悪い時があるわ。今は遠慮をしてはいけない時よ。ねえ、そうでしょう。ユーリ」

「……本当に、いいんでしょうか?」

悠里は確認を取るようにウリエルを見た。

「お祖母さまがそうしたいと言ってるんだし、いいんじゃないかな」

そんな軽い感じで決めてしまってもいいのだろうか。

悠里はまだ決断できないでいる。

「じゃあ、こうしましょう。野菜がたくさん採れるようになったら、それを売って、その売り上げからわたくしに少しずつ返してもらう。これなら、わたくしの財産を使ってしまうという心配もなくなるでしょう?」

「そう、ですね」

それなら、いいかも?

コウメさまに少しずつでも返せるように頑張ろうと思えるし。

「ちゃんとした契約を交わしましょう。最初にどのくらい貸し付けるかとか、売り上げのどれくらいをわたくしに返すとか。そうしたら、ユーリも納得できるんじゃないかしら?」

「はい。それなら……」

「ねえ、ウリエル?」

「ユーリがそれでいいなら。文書の方は俺が作っておきますよ」

「ええ。お願いね」

「じゃあ、金銭の問題はそれでいいとして、とりあえず、リュールに行ってみるかい?」

「まあ、そうね。現地に行ってみないことには仕入れの交渉も出来ないもの」

「ユーリ?」

ウリエルとコウメさまがテンポ良く話を決めて行くので、悠里はやや付いて行けなくなっていた。

働かない頭を叱咤しながら、悠里は頷いた。

「ウリエルさん、お仕事があるんじゃないんですか?」

「いつも休日返上で働いてるんだ。今長期休暇を取っても文句は言わせないよ」

「ほんとに、何から何までお世話になって……」

恐縮する悠里を、ウリエルは笑った。

「何を今さら。俺はお前を守るって決めたんだ。気にすることはない」

その言葉に、コウメさまが「あら」と反応したが、ウリエルは無視して、リュール王国に行くために必要なことを話し出している。

手形の発行や準備で、出発までにはもうしばらく掛かりそうだったが、いよいよ始まったということに、悠里の気持ちも高揚してくる。

石灰を撒いた土も、出発をする頃には種を植えることが出来るようになる。

そうしたら、まず何を植えよう。

野菜じゃなくて、花の方がいいかな。

帰って来た時に満開の花に迎えられたら、凄く嬉しいな。

よし。また市場に行って、花の種を買って来よう。

悠里の中で期待がぐんぐん膨らんで行った。