異世界で家庭菜園やってみた

アシュラムの瞳が大きく揺らいだ。

彼の深い絶望を見たような気がして、悠里は思わず息を飲んだ。

「……もし、それが果せたら、姫は元の世界に戻りたいと思われますか?」

「え……?」

「それとも、コウメさまのように、この世界で生きて行きたいと?」

「……それは……それは、やっぱり帰れるなら帰りたいですよ。コウメさまのように素敵な恋人が出来て幸せになれるなら、この世界でずっと過ごしてもいいかもしれないけれど、でも、そんな保証、どこにもないですよね。……帰れる方法があるんですか?」

「姫がそう望まれるなら、私が見つけましょう」

そう言って、アシュラムは少し酷薄とも思える微笑みを浮かべた。

「姫を束縛するものがない内に、私が必ず姫を帰して差し上げます。お約束しますよ」

「束縛?」

「姫の生きるべき世界は、やはり元の世界ですから。元の世界で伴侶を見つけ、幸せに暮らすべきなのです」

そう言うアシュラムに、悠里はひどく違和感を覚えた。

やはり、彼の真意を推し量るのは難しい。

ウリエルなら、もっと簡潔に、分かりやすい言葉で話してくれるだろう。

「あの、じゃあ、帰る方法が見つかったら教えてくれますか?」

「もちろんです。ですから、姫も、必要以上にウリエルやその他の人間に心をお許しになることがないように。いずれは別れが待っているのですから」

「……」

もっと違う話がしたかった筈なのに。

数日ぶりに会ったアシュラムに話したいことは他にあった筈なのに。

どこかで、何かを掛け違えてしまったような。

そんな違和感ばかりを感じていた。

「戻りましょうか」

「アシュラムさん、あの」

「私は神殿に戻りますが、姫はどうしますか?」

「……わたしは、ウリエルさんとまだすることがあるから……」

「そうですか。では、失礼します」

冷たく言い捨てて、去って行くアシュラム。

あんなに優しかった彼の変貌に付いて行けなくて、悠里は木の下で呆然と立ち尽くしていた。