異世界で家庭菜園やってみた

常緑の立木の下で、悠里は幹を背に、アシュラムがその前に向かい合って立っていた。

太陽の光の乏しい冬の日。

けれど温暖な地域だけに、寒いと感じることはなかった。

「なんだか、とても久し振りなような気がしますね」

「うん。ほんとだね」

アシュラムは眩しい物でも見るように目を細めた。

「コウメさまに言われていたのに、どうしても我慢できなくなって、あなたに会いに来てしまいました」

距離を置いた数日。

お互い冷静になるには十分な時間だった。

彼が自分の生い立ちを悠里に語った意図。

それは何だったのか。

悠里にはまだ分からなかった。

ただ、彼女があの時思ったように、彼が同情を引きたいがために語ったのではないと今なら思える。

少し考えたら分かりそうなのに、あの時は頭に血が上ってしまって、彼を非難することしか考えられなかった。

(わたしって、本当に馬鹿だ)

一時の感情に任せることしか出来ないなんて、子供のすることで恥ずかしくなる。

二人の間をそよ風が吹き過ぎる。

アシュラムの銀色の髪と、悠里の黒髪がその風になびいて混じり合った。

「……私は己れの役目の為に姫を召喚した。父に認められたいが為に。姫にとって、これ程腹立たしく思われることはないでしょう。謝っても謝り切れないことを、私はしてしまったのです……」

そう言って頭を下げるアシュラムに、悠里はかぶりを振った。

「わたしはこの世界で、わたしに出来ることをしようって思ってます。コウメさまやウリエルさんに会って、そう思えるようになりました。ウリエルさんは一緒に頑張ろうって言ってくれます。だから、わたし、とても楽になりました。ウリエルさんやコウメさまは、召喚された人の気持ちがよく分かるから……。だから、わたし、頑張れると思います」

「……ウリエルのことを、信頼されているのですね……」

そう言って、アシュラムは目を伏せた。

長い睫毛が形の良い頬に影を落とす。

「そう、です。ウリエルさんはちょっと兄に似てるんです。優しい所とか、気遣ってくれるところとか。だから安心出来るのかも」

「姫の、兄上に?」

「はい。それに、ウリエルさんは日本人の血を引いているでしょう?だから、何となく通じ合えてるって思えるんですよ」

「……ウリエルと……?ウリエルと通じ合っていると?」

「そうなの。だから、アシュラムさんに心配してもらわなくても大丈夫。わたし、この世界で何とかやっていけると思います。今、ウリエルさんと鉄をどうやって調達しようかって考えてるんです。土を耕す道具を作るんです。そしたら、皆もっと家庭菜園を楽に出来るようになって、神殿の近くの家庭でも新鮮な野菜が食べられるようになって、この国の人が今よりもっと元気で幸せになれると思うんです。今がそのための最初の段階。だからわたし、諦めないで頑張ります!」