異世界で家庭菜園やってみた

いつもは静かな水面のようなアシュラムの瞳に、激しい感情の渦を見つけて、ウリエルはそっと息をついた。

神官としての厳しい修行に耐えてきたアシュラムが、己れの感情を抑えられずにいるということは、それだけ思いが強いということだろうか。

それは、執着なのか。

それとも、純粋な恋情なのか。

今の時点では、ウリエルには分からなかった。

「何故、君がここにいる?アシュラム」

我知らず声が低くなることをどうすることも出来ず、ウリエルは尋ねた。

それ程親しくしている訳ではなく、アシュラムが祖母の元を訪れた際に挨拶を交わすぐらいの間柄で、ウリエルが外務部の仕事を始めると、その機会も無くなってしまった。

二人が会うのは半年ぶりぐらいで、アシュラムが今何を思い、どう行動しようとしているのか、ウリエルには皆目検討もつかなかった。

「コウメさまに、姫が外務部に行かれたとお聞きしたので。それで……」

ウリエルの問いに答えながらも、アシュラムの視線は悠里に注がれている。

そのことにウリエルは少しいらっとしたが、言い淀むアシュラムに先を促した。

「外務卿をお訪ねしたら、もう退出されたと。どうしても、お話ししたいことがあったので、姫を探していたのです」

「で、俺たちを見つけた、と」

「……ええ。そうです」

その時アシュラムの視線がウリエルに動いた。

その睨むような目付きに、ウリエルはまた溜め息をつく。

「何か、勘違いしているようだが……」

「勘違い?」

「ああ。ユーリが俺を伴侶にだなんて、どうしてそんな風に思ったのか知らないが、俺はユーリの付き添いをしているだけだから」

「あなたのお父上が……」

「俺の?」

「あなたを姫の伴侶にと。そう決めたと仰っていましたが?」

(まあた、あの人は!一人で突っ走ろうとしているな)

内心、父の執務室にとって返したくなりながら、ウリエルは「はは」と乾いた笑いを漏らした。

「君は素直なのか、単純なのか……。父の妄想を真に受けたのか?まだ出会って間もない俺とユーリが、そんなことになる筈ないだろう?」

ウリエルの言葉に、アシュラムは考え込むように口元に手をやった。

薄青色の瞳が揺らいでいる。

「あ、あの」

「ん?」

「わたしの伴侶って、どういうことですか?」

「ああ……」

ここにも一人、事細かく説明してやらないと、事態を把握できない人間がいたようだ。

(さっきから溜め息ばかりだな……)

「どうやらアシュラムは、俺とお前が結婚するんじゃないかと勘違いしているみたいなんだ」

「け、け、け、結婚!?」

ズザーッと壁際まで退いた悠里に、ウリエルは「そんなに引かなくても」と不満げに呟いたが、すぐに気を取り直してアシュラムを見た。