異世界で家庭菜園やってみた

コツンと小さな靴音がした。

悠里を見下ろしていたウリエルは、その小さな音に顔を上げた。

「あ……」

思わず声を上げてしまい、ウリエルは自分の口元を空いている手で押さえた。

「ウリエルさん?」

「ああ、いや、大丈夫か?」

悠里は少し顔を赤らめながら、こくりと頷いた。

自分の想いを自覚してしまった今となっては、そんな何でもない仕草にも胸を弾ませてしまう。

自分も赤くなるのを感じながら、ウリエルは目線をまた廊下の向こうに向けた。

「お前に、用があるんじゃないのか?」

「え?」

悠里は振り向いた。

そして彼女もまた、「あ」と声を上げた。

その人はゆっくりと近づいて来る。

その美しい顔には、何の感情も浮かんでいなかった。

「姫。ご無沙汰しています」

「アシュラムさん……」

いや。ウリエルだけは気付いていた。

彼の、アシュラムの、薄青色の瞳に宿る、切なく狂おしいまでの感情に。

それは今にも溢れ出しそうになりながら、すんでのところで踏みとどまっていたが、悠里に名を呼ばれた途端堰を切ったように溢れ出した。

それは次第に表情のなかった顔までも覆い尽くして、アシュラムの顔を苦しげに歪ませた。

「アシュラムさん?」

「……ウリエルを、伴侶に選ばれたのですか?」

掠れた声でそう言うと、アシュラムは鋭い視線をウリエルに向けた。

悠里は言われた意味が分からないのか小首を傾げ、ウリエルは頭を抱えそうになりながらも、アシュラムの視線を真っ向から受け止めていた。