「卿。ご返答は?」
ウリエルがもう一度促すように言うと、サベイル卿は考え事をするように、しばらく瞼を閉じていた。
ややして開けると、「返事は、否、だ」ときっぱり言った。
「鉄製品を輸入することは、我が国にてっと有益だと思いますが?」
珍しくウリエルが焦っていた。
まさか断られるとは思っていなかったのだろう。
「理由を言おう」
そんな息子を、いや、今は外務部の部下としてのウリエルを諭すように、サベイル卿は静かに告げた。
「鉄製品が手に入れば、確かに有益だろう。だが、それには対価がいる。我が国に、リュール王国が満足するだけの対価を支払う能力があるか?いや、ない。リュールにとって、鉄は最大にして、唯一の収入源だ。その対価は、魔法だけでは足りぬだろう。特にリュールは魔法を厭うところがある。だから、我が国はリュール王国の鉄を輸入することは出来ないのだ」
「……そんな……」
悠里の呟きが、部屋の中にやけに大きく響いた。
「お前はユーリの兄だ。お前がなんとかしてやれ」
「無茶言いますね。私にはまだ、何の権限もありませんよ」
「外務部員としてはな。だが、兄としての権限なら、いくらでも使えるだろう?」
「兄としての権限!?」
「そうだ。外務部は一切動かぬ。これは、お前たち兄妹で何とかしろ」
「しかし!先日は乗り気でいらっしゃったではありませんか?」
「あれは、ユーリに会えるのを楽しみに思ったからだ。いいか、ウリエル。くれぐれも勘違いするな。私がユーリに会ったのは家族としてであり、外務卿としてではない。鉄製品を輸入するという話。外務部は一切関与せぬ」
「……分かりました。ユーリ、行こう」
ウリエルはサベイル卿を睨むようにして立ち上がった。
「ウリエルさん……」
「ユーリは、この国の為に何か出来ることはないかとやってくれているんだ。それを、あなたは踏みにじるのか?」
ウリエルの怒りを、サベイル卿は穏やかな笑みでかわした。
「そんなつもりはない。だが、これは政治の場では扱えぬと言っているまで。家族としての援助なら、惜しむつもりはない。なんなら資金を提供してやるが?」
「……あなたは……いや、いい。資金はいくらあってもいい。お願いします」
「ふん。それでこそ我が息子、か。だが、ユーリを泣かすようなことだけはするなよ。リュールは一筋縄ではいかない国だからな」
「言われなくても分かっています。だから、あなたの力を借りたかったんだ。外務卿としての力をね。けれど、それを望めないとなると、ここにいても仕方ない。行こう。ユーリ」
ウリエルがそう言って悠里の腕を引いた時、サベイル卿がこう言った。
「そなたの考えは素晴らしい、ユーリ。魔法を持たない民には画期的なことになるだろう」
大人の事情は分からない。
外務卿が無理だと言えば、無理なのだろう。
なら、自力でやるしかない。
悠里は深く頷いて、「いいご報告が出来るように頑張ります」と力強く言った。
するとサベイル卿は切れ長の目をさらに細くし、うんうんと頷いた。
「素直な、良い子だ。ユーリ。兄にその素直さの半分でもあればいいものを……。まあ、言っても詮無いことだ。これを育てたのはわたしなのだからね」
「私を育ててくれたのは、おばあさまですよ」
「うるさい。ともかく、無事で、ユーリ」
ウリエルがもう一度促すように言うと、サベイル卿は考え事をするように、しばらく瞼を閉じていた。
ややして開けると、「返事は、否、だ」ときっぱり言った。
「鉄製品を輸入することは、我が国にてっと有益だと思いますが?」
珍しくウリエルが焦っていた。
まさか断られるとは思っていなかったのだろう。
「理由を言おう」
そんな息子を、いや、今は外務部の部下としてのウリエルを諭すように、サベイル卿は静かに告げた。
「鉄製品が手に入れば、確かに有益だろう。だが、それには対価がいる。我が国に、リュール王国が満足するだけの対価を支払う能力があるか?いや、ない。リュールにとって、鉄は最大にして、唯一の収入源だ。その対価は、魔法だけでは足りぬだろう。特にリュールは魔法を厭うところがある。だから、我が国はリュール王国の鉄を輸入することは出来ないのだ」
「……そんな……」
悠里の呟きが、部屋の中にやけに大きく響いた。
「お前はユーリの兄だ。お前がなんとかしてやれ」
「無茶言いますね。私にはまだ、何の権限もありませんよ」
「外務部員としてはな。だが、兄としての権限なら、いくらでも使えるだろう?」
「兄としての権限!?」
「そうだ。外務部は一切動かぬ。これは、お前たち兄妹で何とかしろ」
「しかし!先日は乗り気でいらっしゃったではありませんか?」
「あれは、ユーリに会えるのを楽しみに思ったからだ。いいか、ウリエル。くれぐれも勘違いするな。私がユーリに会ったのは家族としてであり、外務卿としてではない。鉄製品を輸入するという話。外務部は一切関与せぬ」
「……分かりました。ユーリ、行こう」
ウリエルはサベイル卿を睨むようにして立ち上がった。
「ウリエルさん……」
「ユーリは、この国の為に何か出来ることはないかとやってくれているんだ。それを、あなたは踏みにじるのか?」
ウリエルの怒りを、サベイル卿は穏やかな笑みでかわした。
「そんなつもりはない。だが、これは政治の場では扱えぬと言っているまで。家族としての援助なら、惜しむつもりはない。なんなら資金を提供してやるが?」
「……あなたは……いや、いい。資金はいくらあってもいい。お願いします」
「ふん。それでこそ我が息子、か。だが、ユーリを泣かすようなことだけはするなよ。リュールは一筋縄ではいかない国だからな」
「言われなくても分かっています。だから、あなたの力を借りたかったんだ。外務卿としての力をね。けれど、それを望めないとなると、ここにいても仕方ない。行こう。ユーリ」
ウリエルがそう言って悠里の腕を引いた時、サベイル卿がこう言った。
「そなたの考えは素晴らしい、ユーリ。魔法を持たない民には画期的なことになるだろう」
大人の事情は分からない。
外務卿が無理だと言えば、無理なのだろう。
なら、自力でやるしかない。
悠里は深く頷いて、「いいご報告が出来るように頑張ります」と力強く言った。
するとサベイル卿は切れ長の目をさらに細くし、うんうんと頷いた。
「素直な、良い子だ。ユーリ。兄にその素直さの半分でもあればいいものを……。まあ、言っても詮無いことだ。これを育てたのはわたしなのだからね」
「私を育ててくれたのは、おばあさまですよ」
「うるさい。ともかく、無事で、ユーリ」


