異世界で家庭菜園やってみた

外務部は王宮とはまた別の場所にあった。

そこは王宮に引けを取らないくらいの敷地面積を誇り、国にとって如何に重要な部署なのかが窺い知れる。

外務部は当然他国との交渉の役割を持っており、度々国を留守にすることの出来ない国王の代役を担うのだ。

その長がウリエルの父である、サベイル・デュ・ロンドベル大公だった。

その怜悧な頭脳と冷徹な判断力から氷の外務卿とのあだ名まである、一種独特な存在だった。

だが決して独善的ではなく、国王や宰相の信頼も厚い。

彼の念頭にあるのは常に国益であり、それに値するものには多大な援助を惜しまなかった。

だが、一度彼に見限られると地獄が待っていた。

それまでの地位や財産を失い路頭に迷うのだ。

だからこそ怖れられているのだが、息子はと言えば、どうやらそんなこともないらしい。

これから会う外務卿について教えて欲しいと悠里に請われ、しばらく考えた挙句に言った言葉が、「ただの鬼畜だ」だった。

「き、ちく……?」

まさかそんな言葉がウリエルの形の良い唇から生み出されるとは思っても見なかった悠里は、一瞬聞き間違いかと思ったが、そうやらそうではなかったようだ。

ウリエルは父が如何に鬼畜であるかを、隣に座る奥手な少女につらつら話して聞かせた。

それは悠里の想像を超える衝撃的な内容で、とてもじゃないが許容出来そうになかった。

「とまあ、こんな感じに鬼畜なんだ。酷いだろ?」

そう聞かれても「は、はあ、そうですね……」と相槌を返すくらいしか余裕がなく、悠里はますます緊張してきて、外務卿に会っても、ウリエルの話を思い出して、まともに顔を見ることも出来そうになかった。

しかし、外務部の応接室に通され面会した外務卿は、ある程度悠里の中で出来てしまっていたイメージとは真逆で、実に紳士的な人だった。

ウリエルよりももう少し日本人ぽさがあるものの、綺麗なハーフ顔で、悠里を見る目も穏やかだ。

その目は切れ長で、ウリエルのものとよく似ていた。

けれど、そこに宿る光は息子よりも鋭く、怜悧な政治家の眼差しだった。

「卿。こちらが先日お話ししたユーリです」

ウリエルの紹介にぺこりと頭を下げると、サベイル外務卿は鷹揚に頷いた。

「異世界より召喚されたと聞いていた。いつか会いたいと思っていたが、まさか、こんなに早く叶うとはな。今は母の元におられるとか。不自由はないかな?」

「あ、えと……はい。ないです。コウメさまもとても親切にしてくれますし」

「それなら良かった。母は、こちらに来た当初は習慣の違いに戸惑ったと話したことがあったから。同じ世界の者同士。母とは話も合うだろう」

「は、はい。そうですね」

時代も違うし、身分も違うけれど、確かにコウメさまとは話が合う。

同郷のよしみというものだろうか。