異世界で家庭菜園やってみた

顔が火照るのを自覚しながらウリエルを盗み見れば、いつもの飄々とした表情からは何も読み取れず、悠里は少しがっかりした。

きっと彼に他意はないのだ。

そんなこと分かっている。

けれど、彼の隠れた感情を期待してしまう悠里がいた。

(畑やってるわたしの方が、わたしらしいってことなのよ)

自分でも痛いくらいに分かっているのに、どうして顔が熱くなるのか。胸がドキドキするのか。

そして、ウリエルにとっては迷惑でしかないことを期待してしまうのか。

悠里は踏み出してはいけない一歩を出しそうになっていることに気付いて、急いでそれを戻し、また再び歩み出すことのないように自分の心を封印してしまった。

(危ない、危ない。わたし、また間違えるとこだったよ)

美形に対するときめきを恋と勘違いしてしまう。

そんな年ではないくせに、と。

だから、悠里は冗談めかして言ったのだ。

「は〜い。わたしは生涯、土と添い遂げま〜す」

「まあ、ユーリったら」

コウメさまは少し困ったような顔をした。

(あれ?)と思う間もなく手を引かれ、「では、おばあさま。行って参ります」というウリエルの声を頭の上で聞くと、引っ張られるようにして屋敷の外へ出た。

悠里は普段とは違うウリエルの乱暴な扱いに困惑しながら、馬車に乗り込んだ。

「頑張るのよ〜」というコウメさまの声に押されるようにして馬車が動き出す。

悠里はコウメさまに手を振るだけで精一杯だった。

邸の門を出ると、悠里は小さく息をついた。

「そういう意味で言ったんじゃない」

不意にウリエルの少し不機嫌な声がした。

「え?」

ウリエルの切れ長な目が、真っ直ぐ悠里を捕らていた。

「土と添い遂げろとか、そんな意味で言ったんじゃないんだ。ただ、土をいじってるお前の方が生き生きしてるって言いたかっただけで。俺は言葉が足りないから、気を悪くさせてたら、ごめん」

「……」

また顔が赤くなるのを感じて、悠里は俯いた。

「怒ったか?」

悠里がふるふると首を振ると、くしゃっと頭を撫でられた。

小さく肩を震わせた悠里に、ウリエルはいつもの優しい声に戻って言った。

「この話が上手く行ったら、お前と一緒に畑をやりたいんだ。俺はおばあさまの手伝いをしてたから、きっと役に立つ」

「……」

「ユーリ?」

「わたしも、今日みたいな正装じゃなくって、よれよれのシャツ着てるウリエルさんの方が好きですよ」

「そうか?」

ウリエルの飄々とした顔に、嬉しそうな笑みが零れた。

「俺も、そっちの方がいい」

「ですよねえ」

「ああ。気楽だしな」

「はい。畑も気楽です。人目を気にしなくていいし。無心になれます」

「それ、俺向きだな」

「ふふふ。ウリエルさんも人目を気にすることってあるんですか?」

「いや。ないな」

「ぷぷ。何ですか。それ」