異世界で家庭菜園やってみた

「こんなふうに、ここには世界中の食材や料理が集まる。それなのに、ディントで作られた物は一つもない。いや。あるか。織物だけはね。けれど、それだけだ。王侯貴族が物資を独占するつもりはないのに、結果としてそうなっている。それは地方まで物資を回せるだけの輸入が出来ないからだ。輸出出来るものがないのに、流石に貰ってばかりも出来ないだろう?」

「じゃあ、やっぱり、作らないと駄目ですね」

「でも、どうやって?」

ウリエルの試すような眼差しに、悠里は顔を引き締めた。

「ウリエルさんは、どんなお仕事されてるんですか?」

「父が外交関係をしているから、俺もその真似事みたいな事をしているよ」

「外交、ですか」

「そう。輸入品の交渉に行ったり、他国の王族のご機嫌伺いしたり。楽しい仕事ではないな」

「でも、ウリエルさんは飄々とこなしてそうですけどね」

「はは。そうかな。うん、でも、そうかもね」

「じゃあ、外国の技術を輸入するっていうのは出来ませんか?」

そう言うと、ウリエルは即座に首を横に振った。

「それは、現国王になってから、何度か首脳級レベルでの会合でも交渉されているけれど、一度として条約締結まで至ってない。他国が欲しい技術は、その国が守りたい技術でもある。容易にはいかないよ」

「そう、ですか……」

外交の最前線に立つウリエルが無理だというのだ。

他国の技術はあてに出来そうになかった。

だとすれば、やはり地道な方法を取るしかない。

悠里の手がある物を求め、再びウズウズとし始めた。

「どうした?」

「ウリエルさん。この国に農機具屋さんてありますか?」

「うん。この市場にもあるんじゃないかな」

そう言いながら、ウリエルは視線を巡らせ、「ああ、あそこだ」と指差した。

「何がいるんだい?」

彼は、目的を定めると、さっさと行動に移すタイプらしい。

さっそく歩き出しながら、悠里に尋ねた。

「あ、えっと」

歩幅の広いウリエルに付いて行くのはなかなか大変だったが、小走りになっている悠里に気付くと、彼は歩調を悠里に合わせてくれる。

悠里はそんな彼のさりげない気遣いが、どうしてか嬉しかった。

農機具屋の品揃えは偏りがあって、鍬や鋤(すき)と言った肝心の土を耕す道具がない。

(困ったな〜)と思いながら真剣な顔で壁に掛けられた道具を見つめる悠里のことを、ウリエルは面白そうに眺めていた。

「この世界の人って、土を耕すことをあんまり重要視してないんですかね?」

「う〜ん。畑を耕す時は牛や馬を使うからね。広い土地で効率的に生産する為だろうけど……。ああ、うちのおばあさまみたいに家で畑をすることはあまりないんだよ」

ウリエルは聡い人だと思う。

悠里の質問の一歩先の答えまで与えてくれるのだから。

「これ、鉄ですか?」

悠里はふと目に付いた手植ごてを手に取ると、ウリエルに差し出した。