異世界で家庭菜園やってみた

物珍しさも手伝って、悠里は露店を一つ一つ見て行った。

ウリエルも「店を覗くのは嫌いじゃない」と言って付き合ってくれている。

果物や野菜、肉、魚、そして衣類。

ありとあらゆるものが並べられている。

神殿では目にしなかった豊かな物資に悠里の心は弾む反面、これらを手に出来るのは、この国の限られた人達だけなのだと言うことが重くのしかかってきた。

「どうして……」

「ん?」

「あ、いえ……。あの、ここにこれだけ物があるのに、地方にはどうして届かないんだろうって、思っちゃって」

「ああ」

悠里の足りない言葉だけで、ウリエルは大体のことが分かったらしい。

うんうんと頷きながら、しかしすぐには答えずに、目に付いたオレンジ色の果物を二つ手に取ると、店主に小銭を渡した。

そして悠里に一つ手渡して、「これは、日本ではミカンという果物に似ているそうだ」

見た目は少し違うけれど、確かに皮を向いてみると、小さな房に別れた果実が現れた。

「ウリエルさんて、日本て言うんですね」

そう言うと、ウリエルは「おかしいかな」と言って、房を一つ口に放り込んだ。

「おかしい、と言うか、アシュラムさんとかは、あちらの世界とかそんな感じだったから。ウリエルさんにはやっぱり日本て身近なのかなって」

「うん。まあ、そうだね。何と言っても、祖母が日本人だし。俺には日本人の血が流れてるんだ」

「そ、そうですね」

何気無く言われた言葉なのに、悠里は何故かとても嬉しかった。

日本人の血。

その共通点が、これ程心強く感じられるなんて。

悠里はそっとウリエルを盗み見た。

顔立ちは彫りが深くて、やはりそこはこの世界の人たちと同じだったけれど、ふとした仕草や表情に日本人ぽさが滲み出ていると思うのは、悠里の思い込みだけではない筈だ。

お礼や挨拶をする時にお辞儀するのは、やっぱり日本人だろう。

(共通点を求め過ぎてるわけじゃないよ)

ついついウリエルの日本人ぽいところを探してしまっていることに気が付いて、悠里は自分にそう言い訳した。

その間にウリエルは次の食材に目を付けたのか、またお金を払っている。

白い紙で包まれたものを受け取って、また悠里に一つ手渡した。

「これ、最高に美味しいんだ。食べてみて」

「あ、ありがとうございます。あれ?これ、フライですね」

「白身魚に味の付いた衣を付けて揚げてるんだ。これは、隣の国の漁師が食べるらしいな」

「へえ。漁師さんが」

どこの世界でも、漁師飯というのは絶品なのだ。