果物はとても美味しかった。

イチジクのような実だが、見たことはない。

「これ、なんていうんですか?」

「それは、ミンという、この春先に出来る果物ですよ」

「……春……と言うことは、夏や秋もあるんですか?」

「ええ。あります。文化や習慣は違うかもしれませんが、季節や気候は、姫のおられた場所と同じです。そう聞いています」

「え?聞いてって……。誰から?」

そのもっともな問いに、アシュラムは微笑んだ。

「今から70年前。姫と同じように、この世界に召喚された方がいらっしゃるのですよ」

「え!?」

「その方にはいずれお引き合わせしようと思っています。いろいろお話されたらいいですよ」

「そ、その人は、わたしと同じ国の人なんですか?」

「ええ。そうです。どうやら、この召喚の秘術は、姫の国の方をお呼びするもののようなのです。過去にも何度か召喚された方たちも、全て姫と同じ民族でいらっしゃったようです。それが何故なのかは、私たちにも未だに分かりません」

「へえ。そうなんですね~」

アシュラムはふっと微笑んだ。

「姫は素直でいらっしゃるのですね」

「え?」

「私がお話していることを疑わないんですか?」

「だって……わたしに嘘を言ったって、アシュラムさんは何も得しないでしょ。どうしてわたしが召喚されたのか、とは思うけど……」

「きっと、姫はこの世界になくてはならない方なのです。私が召喚の秘術を行う際に願ったのは、この王国に光を灯す方を、という事でした。姫は、この国の光になられる方なのです。私はこうして来て下さったあなたを、誠心誠意お守り致しますよ。姫」

悠里は頬が紅潮するのが分かった。

なんと言うか、美形に言われると妙に気恥ずかしい言葉だった。

この国の光?

(わたしが?)

何一つ取り柄のない自分が、どうやって国の光になれるというのか。

(もしかして!アシュラムさん、召喚に失敗したんじゃ……)

はっと思い当たり、悠里は口元を押さえ、おろおおろと目を泳がせている。

穏やかで優しいアシュラムに、自分には何もないのだと告げたら、彼はどうするだろう?