「では、今日はこの種を蒔きます」

ジョーとアルバートの手の平に、さらさらと小粒な種を分ける。

「こうして、ちょちょちょと、手で溝を作って、そこにパラパラと蒔いてくださいね」

「へえ。楽しいねえ」

「このあと水をあげるから、わたし、水を汲んで来ます」

桶を持って、小川の方に走って行く悠里を見送りながら、ジョーがポツリと言った。

「無理してるね、あの子」

その声に、アルバートが顔を上げた。

「やっぱり、そう思います?」

「ああ。子爵さまもここに来なくなっちまったし。あの後、何話したんだか……」

「サラを探してて、僕、ウリエルさんに偶然会ったんです。いつものウリエルさんらしくなくて。上の空というか……こんなこと言ったら怒られそうだけど、泣いてたのかなって、思うような」

「ああ、間違いないね。全く、何やってるんだろう」

傍から見れば一目瞭然なのに、本人だけが気付いていないなんて。

「何とか、してあげたいですよね」

「そうだねえ。あんた、サラちゃんは?」

今頃サラがいないことに気付いたのか、ジョーはキョロキョロ見渡した。

「あいつの事は、もういいです。何言っても聞かないから」

「うう。あっちもこっちも、困ったねえ」

「水、重たいかな。僕が行けば良かった」

桶を持ってよろよろと戻って来る悠里を見つけたアルバートは、慌てて駆けて行った。

それを見てジョーが、「まあ、アルバートでもいいんだけどね」とにやりと笑ったのは、誰も知らない。




「ごめん、僕が行けば良かったんだ」

悠里の手から桶を取ろうと手を伸ばす。

「あ、大丈夫ですよ。このくらい」

「ヨロヨロしてるから」

「すみません……」

桶を渡すと、悠里は手をパタパタ振った。

やはり無理をしていたのだろう。

「大丈夫?」

「はい。ありがとうございます!」

「うん……。ユーリってさ。ちょっと、何て言うか、人見知り?僕も得意な方じゃないけど。そういうとこ、あるでしょ」

「分かり易いですよね、わたしって。ウリエルさんにも、そう言われて、あっ」

咄嗟に口を噤んだ悠里に、アルバートは苦笑した。

「僕は、まだ知り合ったばかりだし、二人の関係をどうこう言える立場じゃないけど。ウリエルさん、いい人だよ?」

「……知ってます」

「でも、来なくなったでしょ。ウリエルさん」

「アルバートさんには関係ないです!」

「そうやって、意地になってるのは、どうして?」

悠里は瞠目した。

「意地?」

「そう。見てて、ハラハラする。自分でどうにかしなきゃとか、一人で頑張ろうとか。もっと肩の力を抜いてごらんよ」

「なんで、皆、他人の事なのに分かるんですか?」

「うーん。他人だからかな?特に、ユーリは分かり易いし」

「わたし、そんなに分かり易いんですね……」