ピンポーン――
インターホンが鳴った瞬間、私の心はときっと音を立てた。
「はーい。」
扉を開けると、大好きな人の顔がのぞく。
「お邪魔します。」
「先生!」
キョロキョロする夏目に、私は思わず吹き出した。
「おまえ、一人で住むには広すぎるだろ、この家。うわ、なにこのソファー。高そうだな……。」
「んもう、やめてよっ!私いらないって言ったのにお父さんが勝手に送ってきたの。」
「お前のこと大事なんだろ、お父さんは。」
「……。」
夏目が前と反対のことを言っているのに気付いて、私はなんだか心がもやもやした。
「心って、ものじゃないでしょ。」
「ああ。でも、大事に思ってるからこそ不自由を無くしてあげたいと思うんじゃないか?」
「うん……。」
なんだか、納得がいかない。
「ヒヨコ、どこにいるの?」
「こっち。」
夏目をリビングの端にある飼育ケージに案内する。
「もう、ライトいらなくなったよ。ほら、こんなに大きくなったの。」
「うわー!!すごいな。こんなに大きくなったのか!もうすぐ大人のニワトリになるんだな!」
「そうだよ。一生懸命育てたんだから。この子、先生のヒヨコだったんだからね。」
「ありがとな、小倉。」
ずっとヒヨコの方を見ていた夏目が、私に向き直って言った。
「どういたしまして!」
照れ隠しに大声で言う。
「でさ、お前いまだにこいつの名前教えてくれないだろ。俺だって名前呼びたいんだから教えろよ。」
「教えない。」
「教えろ。」
「教えない。」
「教え、」
ピンポーン――
「だれだろ。先生、私出るね。」
「おい、まさか、」
「多分回覧板かなにかだから大丈夫。」
私は、そう言って玄関に向かう。
「はーい。」
ドアを開けると、そこには思いがけない人がいた。
「お父さん!どうしたの、急に。」
「いや、今日の午後の会議がなくなってね。金曜日だし、久しぶりに週末を詩織と一緒に過ごそうと思って。いいだろ?」
「い、いいけど……。」
その時、早瀬が夏目の靴に気付いた。
途端に早瀬の顔色がさっと青ざめたのに私は気付いた。
「誰かいるのか。誰だ!」
「えっと……、」
答えられないでいると、早瀬は足早に家に入っていく。
私は焦っていた。
慌てて早瀬の後を追うと、驚いた夏目が立ち上がるところだった。
「お邪魔したようですね、先生。」
早瀬が気味の悪い笑みを浮かべながら言う。
「あ、いえ、その、」
「詩織になにか御用でも?あ、それとも私ですか。上り込んで私を待っていたんでしょう。違いますか?」
「いえ、」
夏目は困り果てた表情で早瀬を見る。
早瀬の顔から作り笑いが消えた。
「違うならなぜここにいるんだ!!」
早瀬が見たこともないほど怒って、怒鳴り声を上げる。
「やめて、お父さん。先生は悪くないの。」
「一人暮らしの生徒の家に上り込んでおいて、いいも悪いもあるか!」
夏目が早瀬に頭を下げた。
「すみませんでした。すぐに帰ります。お邪魔しました。」
一息で言って、足早に出ていく。
夏目の強張った顔を見るのが悲しくて、私は目を逸らした。
今になってやっと、自分の浅はかさに気付いた気がした。
インターホンが鳴った瞬間、私の心はときっと音を立てた。
「はーい。」
扉を開けると、大好きな人の顔がのぞく。
「お邪魔します。」
「先生!」
キョロキョロする夏目に、私は思わず吹き出した。
「おまえ、一人で住むには広すぎるだろ、この家。うわ、なにこのソファー。高そうだな……。」
「んもう、やめてよっ!私いらないって言ったのにお父さんが勝手に送ってきたの。」
「お前のこと大事なんだろ、お父さんは。」
「……。」
夏目が前と反対のことを言っているのに気付いて、私はなんだか心がもやもやした。
「心って、ものじゃないでしょ。」
「ああ。でも、大事に思ってるからこそ不自由を無くしてあげたいと思うんじゃないか?」
「うん……。」
なんだか、納得がいかない。
「ヒヨコ、どこにいるの?」
「こっち。」
夏目をリビングの端にある飼育ケージに案内する。
「もう、ライトいらなくなったよ。ほら、こんなに大きくなったの。」
「うわー!!すごいな。こんなに大きくなったのか!もうすぐ大人のニワトリになるんだな!」
「そうだよ。一生懸命育てたんだから。この子、先生のヒヨコだったんだからね。」
「ありがとな、小倉。」
ずっとヒヨコの方を見ていた夏目が、私に向き直って言った。
「どういたしまして!」
照れ隠しに大声で言う。
「でさ、お前いまだにこいつの名前教えてくれないだろ。俺だって名前呼びたいんだから教えろよ。」
「教えない。」
「教えろ。」
「教えない。」
「教え、」
ピンポーン――
「だれだろ。先生、私出るね。」
「おい、まさか、」
「多分回覧板かなにかだから大丈夫。」
私は、そう言って玄関に向かう。
「はーい。」
ドアを開けると、そこには思いがけない人がいた。
「お父さん!どうしたの、急に。」
「いや、今日の午後の会議がなくなってね。金曜日だし、久しぶりに週末を詩織と一緒に過ごそうと思って。いいだろ?」
「い、いいけど……。」
その時、早瀬が夏目の靴に気付いた。
途端に早瀬の顔色がさっと青ざめたのに私は気付いた。
「誰かいるのか。誰だ!」
「えっと……、」
答えられないでいると、早瀬は足早に家に入っていく。
私は焦っていた。
慌てて早瀬の後を追うと、驚いた夏目が立ち上がるところだった。
「お邪魔したようですね、先生。」
早瀬が気味の悪い笑みを浮かべながら言う。
「あ、いえ、その、」
「詩織になにか御用でも?あ、それとも私ですか。上り込んで私を待っていたんでしょう。違いますか?」
「いえ、」
夏目は困り果てた表情で早瀬を見る。
早瀬の顔から作り笑いが消えた。
「違うならなぜここにいるんだ!!」
早瀬が見たこともないほど怒って、怒鳴り声を上げる。
「やめて、お父さん。先生は悪くないの。」
「一人暮らしの生徒の家に上り込んでおいて、いいも悪いもあるか!」
夏目が早瀬に頭を下げた。
「すみませんでした。すぐに帰ります。お邪魔しました。」
一息で言って、足早に出ていく。
夏目の強張った顔を見るのが悲しくて、私は目を逸らした。
今になってやっと、自分の浅はかさに気付いた気がした。