春、それは魔法の季節。
私が先生に出会ったのも、四月の桜並木の下だった。
「おはよ。」
後ろから声をかけられて反射的に振り向く。
「おはようございます。」
こんな先生いたっけ、と首をかしげる。
よほどいぶかしげな顔をしていたのだろう、先生は苦笑いをしながら言った。
「新採用で今年赴任した。名前は夏目。教科は生物。」
先生は、これでいいか、というふうに私の顔を覗き込む。
「なつめ、先生」
先生は軽くうなずくと、きみは、と尋ねた。
「二年一組の小倉(こくら)です。」
「一組?それ、俺の受け持ちのクラスじゃないか。」
「えっ。」
驚いた。私のクラスは三年間固定なので、担任も変わることはないと思っていたのだ。
すると先生はあわてたように言った。
「まずい。今の内緒な。」
そう言って、唇の前に人差し指を立てる。
「はい。」
私も同じしぐさをすると、先生は困ったように微笑んだ。
守りたくなってしまうようなその笑顔に、不覚にもきゅんとした。
思えば、このときもう私の心は傾いていたのかもしれない。
誰にも許されない恋をすることの苦しさを、高校生という立場のもどかしさを知らないまま。
私は真っ白なままで、この恋を知ってしまったんだ―――
私が先生に出会ったのも、四月の桜並木の下だった。
「おはよ。」
後ろから声をかけられて反射的に振り向く。
「おはようございます。」
こんな先生いたっけ、と首をかしげる。
よほどいぶかしげな顔をしていたのだろう、先生は苦笑いをしながら言った。
「新採用で今年赴任した。名前は夏目。教科は生物。」
先生は、これでいいか、というふうに私の顔を覗き込む。
「なつめ、先生」
先生は軽くうなずくと、きみは、と尋ねた。
「二年一組の小倉(こくら)です。」
「一組?それ、俺の受け持ちのクラスじゃないか。」
「えっ。」
驚いた。私のクラスは三年間固定なので、担任も変わることはないと思っていたのだ。
すると先生はあわてたように言った。
「まずい。今の内緒な。」
そう言って、唇の前に人差し指を立てる。
「はい。」
私も同じしぐさをすると、先生は困ったように微笑んだ。
守りたくなってしまうようなその笑顔に、不覚にもきゅんとした。
思えば、このときもう私の心は傾いていたのかもしれない。
誰にも許されない恋をすることの苦しさを、高校生という立場のもどかしさを知らないまま。
私は真っ白なままで、この恋を知ってしまったんだ―――