*
(………ここらへんは初めて来たな)
その頃、チキュはソガノの区域内の端近くまでやって来ていた。
毎日のように、見張りの目を盗んで天宮の探索をしているのだが、軟禁状態の部屋からここまで離れたのは初めてだった。
遠くから何だかがやがやと声が聞こえてくるような気もするが、この回廊はひどく静かだった。
昼間だというのに、窓もほとんどない天宮は、陽の光も射さずに薄暗い。
両側に並んだ燭台の灯だけが、ゆらゆらと揺れながら廊の床を照らしていた。
冷え冷えとした静寂の中を、チキュは足音を立てながら歩き回っている。
きょろきょろと視線を巡らせながら、あるものを捜す。
(…………ない。
やっぱり、どこにもない………)
そう思って、落胆の吐息を洩らした。



