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「父上」
タツノは未来の愛妻の部屋を出ると、その足で父の私室に向かった。
片腕であるキムロと密談をしていたらしいムラノは微かに眉を顰めて振り向く。
「…………急に入ってくるなと、いつも言っておろう」
「ふん。すみませんね。
しかし、実の息子に聞かれて困る話とは………。
今度は一体、どんな悪巧みをなさっておられたことやら………」
いつも通りの皮肉めいた口調に、今さら腹を立てるのも馬鹿らしく、ムラノは軽く息を吐いて誤魔化した。
「で、何の用だ」
父に訊かれ、タツノは右の口角をゆるりと上げる。
「『エーテル』ーーーああ、これからはアカネと呼ぶことにしましたがーーー彼女についての話です」
そう言われてムラノは情けなく眉を下げた。
「………なんだ。
また厄介事でも起こしたか」
気難しく頑固な父ムラノまでも、奔放なチキュのペースに巻き込まれているのが感じ取られ、タツノはおかしくなった。
「いえ、そうではありませんよ。
今度の天皇の宴のことです」



