タツノとサヤが去った後。




チキュは一人ひっそりと夜具の中に身を埋めていた。





その双眸は、瞬きもせずにぽっかりと天蓋を映している。







チキュの小さな胸に、真冬に冷えた身体を浸す温かい湯のような、じわりと幸福な幻想が去来していた。





蔦籠の罠で捕った揚羽蝶。


小さいながらも居心地の良かった食堂。


そこを満たす食器の音と、笑い声。


三人で並んで歩いた道。


拙い啼き声の小鳥と、真っ赤な果実。



それを噛む、しゃくしゃくという小気味好い音ーーー。






それはもはや、ただの夢幻でしかないのだろうか?



三人で過ごした日々は、もう戻って来ないのだろうか?